“脾”と“腎”の関係

こどもの骨折

日本スポーツ振興センターによると、最近、学校における骨折は、小学生から高校生まで増加しており、全体で30年前の1.5倍、1970年と比べると2.4倍となっているそうです。関係者によれば、こうした子どもの骨折の増加の理由として、高齢者と同じく家庭内でいる時間が長くなって身体機能が低下していることや、中学生以上では部活動中の骨折が多いことから特定の部位に負荷がかかりすぎていることなどが挙げられています。

しかしながら、漢方的な見地では、子どもにかぎらず骨折しやすいというのは腎虚の症状であることはいうまでもありません。人間の成長、発育、生殖に深く関わり、生命の根源とも称される腎の機能低下=腎虚が、子ども達の間で増加しているわけで、その背景には運動不足などよりも人間の成長発育の原動力である精、特に“後天の精”の慢性的な不足をきたしている事が原因であると考えられます。更に、より根本的な問題として、飲食物の中の最も栄養の濃い部分から精(後天の精)を生成する脾の働きの低下、即ち脾虚の蔓延が挙げられます。また、同時に脾虚となる原因が、飲食物そのものの栄養の偏りや生冷過食など飲食の不摂生にあると考えられることから、運動不足を解消したところでこどもの骨折は減少するとは思えません。日本体育大学の正木健雄名誉教授らのグループは、1970年代に入った頃から、全国の学校現場で子どものからだがおかしいという教育現場の声を受けて「“からだのおかしさ”の教育者の実感とその実体の究明」を目的に日本全国の保育所から高校までを対象にして1978年からほぼ5年おきに「子どものからだの調査」を実施していますが、今から40年近く前の第1回調査でも、「最近増えてきている」という実感ワースト10の上位に、小中学生の間で「背中ぐにゃ(背筋力の低下から、座っている時に背筋がピンと伸びずにぐにゃぐにゃになっている状態)」や「背筋がおかしい」といった項目が並んでおり、この頃から日本の子どもたちの間で“後天の精”の不足による腎虚症状が増え始めたと思われます。

食や五臓の“脾”に問題があることが、“後天の精”の不足から腎虚となって骨密度の低下につながるということに関して、ミネラル分が抜け落ちている加工食品の氾濫などのほか、近年の腸内細菌に関する研究から、腸内細菌バランスが悪いと食品中のミネラルの吸収に支障をきたすことや腸内細菌由来の短鎖脂肪酸のひとつである酪酸が骨芽細胞の分化誘導を介して骨形成につながることが明らかになっています。すなわち、五臓の脾の機能面に深くかかわる腸内細菌バランスの乱れが骨密度の低下につながることが解明されています(現代に於いては幼少期における抗生物質の使用なども腸内細菌バランスが大きく乱れる要因とされています)。

冬令進補

これから迎える冬は五行説では“腎”の季節であり、中年以降の方では足腰の痛みや尿の問題など腎虚症状が顕在化しやすいほか、“冬令進補、春天打虎”といって、健康な人でも来るべき春に備えて冬の間に進んで“精”を補うことが重要とされています。冬の時期は、欧米でもジビエ料理など“精がつく”食材が好んで食べられますし、中国では鹿茸や亀板など動物性の生薬で精を補うものを積極的に摂れば良いとされています。ただし、これら栄養の濃いものはそれを受け入れる側の胃腸機能にもそれなりのパワーが要求されますので、子どもの骨折の増加の背景に考えられるような胃腸機能の低下から“後天の精”が不足しているようなケースでは、補腎薬を服用するだけでなく脾胃の機能面の改善を並行して考えなければ、期待通りの効果が得られません。

因みに日本人の胃腸が弱いことは江戸時代の“養生訓”にも「中華、朝鮮の人は脾胃つよし。……日本の人は是にことなり、多く穀肉を食すれば、やぶれやすし。」と記されています。理由として考えられるのは、平安時代から江戸時代まで基本的に牛肉や豚肉などを食べることが禁じられていたことや、日本は“脾”に悪影響をもたらす湿気(湿邪)が多いことなどが挙げられます。

 

 

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