梅雨と体内の水分代謝

湿邪の影響

 梅雨の季節となりました。日本は年間の降水量が世界平均の2倍もあり、梅雨時以外でも雨が多いのですが、特にこの季節はジメジメした天候が続くことで湿邪の影響を受けやすくなります。湿度が高いことによる影響としては、雨が続くと「鬱陶しい」と言うように、湿邪は“気”の巡りを悪くして、やる気がなくなったり、だるさをおぼえやすくなります。また、“(気が)通じざれば則ち痛む”とされ、腰痛や神経痛などの痛みの症状が顕在化しやすくもなります。更に、五臓の“脾”は“湿を嫌う”ことから、食欲が低下したり、おなかをこわしやすくなるなど胃腸機能が低下し、体内の水分代謝が乱れて水毒とか内湿とよばれる不要な水分がたまりやすくなります。内湿をかかえていると、環境の湿邪(外湿)の影響をより受けやすくなり(“同気相求”)、雨が降ると頭が締めつけられるように痛むとか、特に午前中にからだが重だるく感じられる(朝起きてから徐々にからだを動かすことで、だんだんと“気”の巡りが良くなっていくべきところ、体内の余分な“湿気”が“気”の巡りを邪魔するため)、めまいなどの症状がでやすくなります。

 また、この季節は気温も上昇しやすく、同じ気温であっても湿度が高いことでより蒸し暑く感じるようになって、エアコンの冷気の影響を受けたり、冷たいものを摂りがちになるなど、更に胃腸機能を低下させてしまい、そのことが更なる体調の悪化につながっているケースが多く見受けられます。こういった方の特徴としては、自分は暑がりだと自覚していても低体温であったり、冬になると不要な水分を多くかかえていることで“寒がり”になることが多いです。

 

人体の水分代謝

 西洋医学的には腎臓の排尿作用に関しては古くから知られていましたが、全般的な人体の水分代謝については未知の部分も多いようです。今年の3月、ニューズウィーク誌の報道によりますと、ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトが、「皮膚の下にあり、消化管や肺、泌尿系に沿ったり、動脈や静脈、筋膜を囲んだりしている層は、従来、結合組織と考えられていたが、実は、体液を満たし、相互に連結し合う区画が、全身にネットワーク化されたものであることがわかった」とし、「これを間質という新たな器官として定義すべき」との研究論文を発表したとのことです。この体液で満たされた間質は、コラーゲンとエラスチンという2種類のタンパク質による網目構造で支えられており、組織を守る緩衝剤としての役割があるほか、体液の移動通路でもあり、この体液がリンパ系に流れ込むことで免疫機能にも関わっているとしています。また、この間質は体重の20%を占めており、これまで人体最大の器官とされていた皮膚(体重の16%を占める)を上回る大きさの器官であるとのことです。

 ところで、“皮膚の下”にあり“消化管や肺、泌尿系に沿った”ところにあり、体液で満たされている間質を漢方的に考えると、これまで実体がないとされていた“三焦”といえそうな気がします。また、“脾”のつかさどる水分代謝と重なる部分も大きいと思います。よって、湿邪の影響や冷たいものの過剰摂取などから脾虚になることで、間質の水がだぶつくことがむくみやからだの重だるさにつながるばかりか、免疫系にも影響して夏風邪を引きやすくもなります。また、老化などによって腎虚が進むことはからだの水分保持能力の低下(腎陰虚)につながりますが、これは間質構造を支えているコラーゲンやエラスチンなどが腎虚(腎精不足)によって劣化していく過程であるとも言えます。

 いずれにせよ“脾”の機能を保つことは正常な体内の水分代謝の維持につながるほか、長い目で見れば“後天の精”をより多く生み出すことで腎精を維持して老齢化に伴う水分保持能力の低下を防ぐことにもつながります。最後に、おなかを温めるとともに速やかに湿邪による“気”の巡りの滞りを解消して、梅雨時のだるさや頭(ず)重感(じゅうかん)を和らげるには麝香製剤が有効です。

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