ストレス性の“かくれ不眠”

漢方薬局に来られる方の特徴

 漢方薬局に相談に来られる方の大半は漢方薬をのみたくて来られるものと思われがちですが、実際のところそういう人は殆どいません。では、どういった方が来られるのかというと西洋医学的には満足な結果が得られない人達です。西洋医学的な検査ではたいして異常は見つからない、もしくは西洋医学の治療で改善しないまま、なんらかの症状で苦しんでいるという方が一番多いような気がします。病名でいえば慢性疲労症候群や自律神経失調症、慢性胃腸炎から、アレルギー疾患、お肌や髪の毛のトラブルも含めた婦人系の疾患などになりますが、命に関わるほどの重症ではなく、日常生活やお仕事もなんとかこなせているものの悩んでいるといったケースです。

 こういった方々の特徴としては、もともとその症状の原因が精神的なストレスが原因でなかったにせよ、漢方薬局にたどり着く頃には、ご自身の症状がなかなか良くならないことが相当なストレスになっていることです。精神的なストレスに長期にさらされることは食欲の減退や胃腸機能の低下につながり、ますます自己治癒力が低下していきます。

 このような方が相談に来られたら、主訴はもちろん伺いますが、睡眠状態の確認は欠かせません。睡眠に関して寝付けない場合は主訴の一つになり得ますが、睡眠が浅くて夢ばかり見ているとか、夜中に何度も目が覚めるといった場合は、こちらから尋ねない限り本人が口にすることは希です。

  ぐっすり眠れないということは深い眠りであるノンレム睡眠の時間帯が少なく、ノンレム睡眠時にのみ分泌される成長ホルモンが十分に分泌されないことで免疫力やホルモンバランスなど全身に悪影響を与えるほか、睡眠中に脳内で緊張状態が続くことで首周りや背筋が凝り固まったり、起きてから午前中を中心に胸やけのような症状がでたりもします。

 

快食快眠快便を目指す

 さて、問診によって、ぐっすり眠れていないことが確認できたら、昼間の症状を追いかけるよりも睡眠状態を改善することを優先します。神農本草経には、「悪気を避けさせ、幽霊やもののけのたたりを消し去るほか、人に悪い影響を及ぼす邪気を除き、そのためよく夢をみて飛び起きたり、あるいは寝ていて悪夢にうなされるといったことがなくなる」といった現代でいうところのストレス性の睡眠障害を改善する薬効があるものとして数種類の生薬が挙げられており、中でも麝香と羚羊角が双璧だと思います。両者の使い分けとして麝香は不安感が強いタイプに、羚羊角はイライラや焦りが強いタイプの方に適応します。

 昼間に不安感から動悸がするとか、イライラして仕事が手につかないような場合は昼間も服用すると良いですが、寝る前だけでも服用することで二、三日で睡眠状態が改善することが多く、その後一週間程度服用してぐっすり眠れるようになれば、それだけでも主訴がかなり和らぎ、その段階から昼間の主訴に応じた漢方薬などをお勧めすると、比較的早く回復されることが多いです。また、睡眠状態がある程度改善すれば、次の段階として胃腸の機能面にポイントを置いて快食、快便状態を目指すことが症状の改善とともに再発防止には効果的です。

 胃腸に関しては、健康診断などで粘膜にポリープや炎症がみとめられなければ、いくら空腹感がない、食後に眠たくなる、便通に問題があるといった機能面の自覚症状があっても異常なしとされがちです。ただし、漢方では胃腸=脾は“後天の本”とされ、健康状態を維持するためには胃腸の機能が正常であることが最も大事とされており、胃腸機能の低下は万病につながります。また、胃腸の機能に関してはその方の食生活が大きく関わってきますので、食事の指導も合わせて行う必要があり、次回はそのことについて触れてみたいと思います。

 

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