日本の夏、霍乱(かくらん)の夏

霍乱(かくらん)の病

 霍乱とは現代中国ではコレラという意味にも使われますが、もともと漢方では夏の暑い時期に多く見受けられる吐き下しを伴う食あたりや水あたりのような症状を指します。また、日本では古くより現代の熱中症のような症状に対しても用いられてきました。

 近年、気温が高くなる時期を迎えるとテレビなどでも繰り返し熱中症に対して注意が呼びかけられますが、国立環境研究所による統計データをみても猛暑だった平成22年を境に熱中症で救急搬送される患者が急増しており、その後も患者数は多い状態が続いています。これは、夏の気温が高めで推移していることも関係していると思われますが、年齢階級別の熱中症による死亡者に関しては圧倒的に65歳以上の高齢者が占めていることから、日本人の高齢化が進んでいることも関係していると思われます。因みに平成22年は団塊の世代が60歳を迎えた時期にあたりますが、今後ますます高齢化が進むことを考えると夏の気温が多少低くなったとしても熱中症の患者数はこれからも増加していくことが予想されます。

漢方から見た熱中症

 さて、漢方的に熱中症を考えた場合、簡単にいえばからだのオーバーヒートのようなものといえます。人間のからだを構成している水分の割合は、若い間は体重の60~65%程度とされていますが、高齢者では50~55%になるとされています。これは細胞内の水分が減少するためで、漢方では陰虚といいますが、水分の摂取量の問題ではなく、水分保持能力の低下が主な要因といえます。つまり、車に例えるなら、高齢者ではラジエターの水が少ないためにオーバーヒートしやすいものの、ラジエターの中の水が少ないというよりも、ラジエターの容量そのものが小さくなっているということです。このため、高齢者では一度に多くの水分を補給しても水があふれてしまうだけで、こまめに水分補給することが求められます。因みに、高齢者のラジエターの容量を減らさないようにするためには一身の水源である腎陰を補うことが必要で、六味地黄丸が代表的な処方になりますが、高貴薬としてすぐれているのが亀板になります。

 また、若い人でも陰虚体質の方はもちろん要注意ですが、それ以上に胃腸虚弱などで気虚となっている場合も注意が必要です。これは、暑い時期に汗をかくことで体内から水分が流出するだけでなく、“気”も漏れ出すと考えられており、気虚体質の方は発汗することによって、ますます気虚の状態がひどくなるためです。車でいえば、エンジンそのもののパワーが非力な上にラジエターの水が抜けてエンストを起こすようなものです。

 いずれにせよ、高齢者であれ気虚の方であれ、からだの気と陰分を補う生脈散や清暑益気湯のような処方が熱中症の予防には有効ですが、いざというときの速効性に関しては牛黄や蟾酥製剤がすぐれています。普段は元気な方でも、暑いさなかに屋外で仕事やスポーツをするといったときには、あらかじめ牛黄や蟾酥製剤を服用しておくことが有効です。

もうひとつの霍乱の病

 最後に、この時期、熱中症予防のために冷たいイオン飲料のようなものをがぶ飲みしていると胃腸が冷やされ、からだがむくみやすくなります。こうなると、体内に余分な湿気が充満して、蒸れたような状態になり、外気温がさほど高くなくても暑く感じるようになり、クーラーを強めたり薄着になったりして、結果的に体を冷やしすぎてしまいます。そのほか、頭重感や午前中を中心に体が重だるく感じるといった症状も体内の余分な湿気(内湿)が原因で起こります。更には、体の内と外からおなかを冷やすと、もうひとつの霍乱の病である感染性胃腸炎にも罹患しやすくなります。対策としてはおなかを冷やしすぎないことですが、おなかを温めつつ湿気によるだるさをとり除くのには麝香製剤が速効性にすぐれています。

 

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