医療の東洋回帰

抗菌石鹸禁止

 先月、米国食品医薬品局(FDA)は一部の抗菌成分を含む抗菌石鹸の販売を禁止することを発表しました。FDAによると抗菌成分を含むからといって通常の石鹸と比較しても効果に差はなく、それどころか環境汚染や耐性菌のリスクがあるばかりか、長期に使用したときに人体のマイクロバイオーム(腸内細菌や皮膚の常在菌など人体と共生している微生物群)に悪影響を与える恐れがあることから禁止に踏み切ったそうです。日本でも同様の成分を含むハンドソープやボディソープなどが多数売られていますが、抗菌石鹸の使用ですらマイクロバイオームに悪影響があるなら、抗生物質の安易な投与や加工食品に含まれる保存料など細菌の増殖を抑制するものの摂取に関しても、もっと議論されるべきだと思います。

  今回のFDAの措置は、数年前より遺伝子解析法によって腸内細菌に関する研究が一気に進んだことで、腸内細菌バランスと胃腸疾患のみならず、自閉症やうつ病、アレルギー疾患や自己免疫疾患など数多くの疾患との関連性が明らかになりつつあることが背景にあると考えられます。19世紀の後半にコッホによって炭疽菌が発見されて以来、細菌=病原菌というイメージが先行してきた歴史がありますが、近年の研究によってそういった病原性の細菌に対する免疫力も腸内細菌バランスの善し悪しが大きく影響することがわかっており、今回のFDAの決定は世間の細菌に対するイメージのターニングポイントとなるかもしれません。

 欧米におけるマイクロバイオームの研究では、通常に飼育しているマウスでは血液中に4200種類の化学物質が見つかったのに対して無菌マウスでは僅か52種類しか見つからなかったという報告もあり、腸内細菌がビタミンB群やビタミンK、セロトニン以外にも数多くの化学物質の合成に関与していることが示されています。更に、一般的に食べもののカロリーの15%は腸内細菌が抽出してくれているともいわれており、腸内細菌によって栄養素の吸収に差が出ることもわかっています。いずれにせよ、人間が健康に生きていくためにはマイクロバイオーム、すなわち人間と共生している細菌が鍵を握っているということが西洋医学の世界でも常識となってきています。

天人合一と養生

 漢方の考え方では人間も自然界の一部であり、たえず自然界との相互作用の中に生きており、人体内部も統一体として生命活動を行っているとする根本哲学がありますが、マイクロバイオームの研究は、このような考え方の正しさを支持するものといえます。

 この地球上には深海であれ、地下深くであれ、いたる所に細菌が存在しており、植物の成長にも土壌菌の存在が大きく関わっています。いわば自然界を根底から支えている存在が細菌であると言えます。もっといえば、約20億年前に好気性細菌の一種であるαプロテオバクテリアが細胞内共生したことで、ミトコンドリアとなって私たちの生命を支えているわけです(一説にはミトコンドリアは人の体重の10%を占めているともいわれています)。

 最近の科学的な結論としても、マイクロバイオームやミトコンドリアが元気でいてくれることが健康の条件であることが解明されてきています。そのためには脂肪分の多い食事や冷たいものを避けて、発酵食品や水溶性食物線維の多い食事を摂ることで腸内の有用菌が増えるとされているほか、最近“ミトコンウォーク”などと呼ばれて注目されていますが、適度なエクササイズを生活にとりいれることがミトコンドリアの活性化につながるとされています。このことは、漢方の世界で古来いわれてきた食養生や導引術とよばれる養生の正しさが科学的な裏付けを得たものと考えられます。

  今後、マイクロバイオームやミトコンドリアに関する研究が更に進むことによって、西洋以上に西洋医学一辺倒と揶揄される日本に於いても東洋医学の考え方が見直されていくような気がします。

 

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