老化と陰虚と炎症

血液希釈と若返り

今年の6月、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、老いたマウスの血漿の半分を5%のアルブミンを含んだ生理食塩水に置き換えたところ、脳や肝臓、筋肉といった組織が若返っていることが確認されたとする研究結果を発表しました。同研究チームによると、老いたマウスの血液では血漿交換によって年齢と共に上昇する炎症性タンパク質の濃度が減少し、有益なタンパク質の数値が増加しており、血漿交換が若返り効果をもたらしたとしています。また、同様の効果は、血漿交換療法が実施された人間の血液でも確認されたそうです。

この研究結果からいえることは、老化によって血液(血漿)中に炎症性タンパク質が増加することと、増えた炎症性タンパク質を除去することでからだの組織が若返るということです。以前にも慶應義塾大学とイギリスの大学が世界の長寿者を調査したところ長寿者に共通するのはテロメアの長さと血液中の炎症マーカーの低さの2点であることがわかっていますが、今回のカリフォルニア大学の研究でも炎症性タンパク質の濃度の低下が若返りに直結することが確かめられました。老化と炎症に関しては、2009年に京都大学の研究チームが加齢に伴ってある種のT細胞集団(PD-1陽性Tリンパ球)が増加していくことで、外来病原体に対する獲得免疫応答の低下や過剰な炎症反応傾向などの特徴的な変化を伴う免疫力の低下がおこることを解明しています。

漢方的に考えれば老化とは生命の根源とも称される腎の衰え(=腎虚)と考えられます。また、腎は一身の“陰液の本”とされ、いわば身体の水源であり、老化に伴って水源の水(陰液)が減少していきます。更に、陰液の減少は陰虚状態から虚熱を生じさせますが、このことは血液中の炎症性物質の増加につながると思います。蛇足ながら、腎は一身の“陽気の本”でもあり、老化に伴って陽気も減少していくわけですが、陰液の減少よりも陽気の減少の度合いが大きいものを腎陽虚、反対に陽気より陰液の減少の度合いが大きいものを腎陰虚と分けているだけで、いずれにせよ老化によって陰液が減少していくことにかわりはありません。

腎陰虚と熱中症

陰液を補う方法論としては一般の方は水分補給と短絡的に考えがちですが、腎陰虚とは水分保持能力の低下であり、水分を補給しても腎陰は回復しません。熱中症に関してもこまめな水分補給は目先の手段としては有効でも、普段から老化に伴って減少する腎陰を補うことで水分保持能力を高めることは熱中症のリスクの低減につながります。漢方では、中年にさしかかる頃から特に病気ではなくても六味丸のようなもので腎陰を補うことで若さを保つことができると考えられていますが、ある程度の年齢になってからは亀板などの動物性生薬が必要になってきます(亀板と鹿角で加齢に伴って衰えていく腎の陰と陽を補うのが亀鹿二仙膠です)。

熱中症に関して補足しておくと、体調がおかしくなった時は蟾酥製剤が効果的です。蟾酥には“辟穢開竅・醒神”作用があり、古来、中暑(暑に中(あた)るの意)による意識障害の特効薬として用いられてきました。また、牛黄も古くより暑気あたりに対する苦味清涼に用いられてきました(牛黄単味の薬効としては日本では解熱、鎮痙、強心の3つが認められています)。熱中症でも生命に関わるような重症例では体内で次から次へと炎症性サイトカインが大量に発生する(サイトカインストーム)ことで、意識障害や内臓などの組織障害が引きおこされますが、特に牛黄には熱中症以外でもインフルエンザ脳症など、現代医学的にいうとサイトカインストームが発生したときの救急薬として用いられてきた歴史があります。因みに、清朝の時代の『温病条弁』には“牛黄は日月の精を得て神明を通じるとともに腎水を滋し、虚火を降ろす”と記されています。

 

 

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