“小児五疳”の蔓延

小児五疳

 小児五疳とは文字通り小児に多くみられる症候で、日本薬学会の薬学用語解説では“小児五疳とは,中国思想の五行説(世の中のあらゆるものは5つの属性に分類でき,その5つが相互に密接な関係を持っているという思想)という基本概念から,漢方理論的に小児の特異体質に適用した考え方.すなわち,いろいろな内因,外因によって五臓(肝臓,心臓,脾臓,肺臓,腎臓)のバランスが乱れ,精神的症状や肉体的症状を起こし,この2つの症状が相互に作用し合う諸症状を総称したものである.これは,現代の虚弱体質・過敏性体質(滲出性体質,自律神経失調症)に近い症状で,「小児直訣」「太平恵民和剤局方」の原点に詳しく解説されている”と紹介されています。要するに、小児に多くみられる夜泣き、疳の虫、ひきつけなどの症状を指しています。

 もともと小児の体質として“稚陰稚陽”といって、陰も陽も未熟であるとか、“三有余四不足”といって、“陽”と五臓の“心”“肝”は有余であり、“陰”と“脾”“肺”“腎”の四つは不足がちであるとされ、ちょっとしたストレスなどで容易に体内のバランスを乱しやすいという特徴があります。特に、四不足のなかでも“後天の本”と称される“脾”が弱いことが、小児五疳の発症の主な要因とされています。

  ただし、成長するに従って主に四不足が改善されることで、陰陽をはじめ五臓のバランスも整うことで自然と発症しなくなっていくことから“小児”五疳とよばれています。

 

小児喘息・小児アトピー性皮膚炎

 小児五疳を発症しやすいことと同じ理由で、漢方で“脾・肺・腎の病”ともよばれるようなアレルギー性の喘息やアトピー性皮膚炎なども小児に多くみられたことから、少し前まで小児喘息や小児アトピー性皮膚炎などとよばれていました。ところが、時代とともに小児の時期を過ぎても自然治癒することが少なくなり、いつのまにか“小児”という二文字が外されて使われることが多くなってきました。因みに国民病とまで言われるようになった花粉症などのアレルギー性鼻炎も、昔は“はなたれ小僧”とよばれており、子どもに特有の症状というか疾患とみなされていました。

 このように小児に特有であったはずの疾患が、からだが成長しても治らなくなったのは、いつまでたっても四不足、なかでも“脾”の機能低下状態が改善しないことが主な原因であると思います。また、“脾”の機能を低下させている原因としては、食べ物の栄養の偏りなどもさることながら、食事の「時間」や「温度」や「噛む回数」などに問題があることが挙げられます。また、“脾”とは食べものの消化、吸収、代謝をつかさどるものですが、最近注目を集めている腸内細菌の働きなども含むもので、保存料などの食品添加物や抗生物質の使用によっても“脾”の機能は低下します。

 

ストレスの季節を迎えて

 昔に比べて食に関してはタンパク質なども豊富になっており、それゆえ日本人の体格が立派になったり、世界有数の長寿国になった側面はありますが、それと並行して“脾”が弱い人(“ひよわ”な人)が増えてきて、アレルギー疾患が増えたり、小児五疳のようなストレス抵抗力の低下からくるうつ病やちょっとしたことですぐに興奮したりする大人が増えてきているのも事実です。

  これから漢方的にみてもストレスの影響を受けやすい春の季節を迎えますが、同じストレス性疾患でも肝鬱気滞というよりは気虚気滞というか、脾虚肝乗とよばれるようなケースが増えてきており、大人であっても昔から小児五疳薬とよばれてきたような処方が適応することが多くなってきています。また、食べものでいえば発酵食品のようなものを積極的に摂ることで腸内細菌バランスを改善することは脳腸相関の観点からストレス抵抗力を高めることにつながるばかりか、アレルギー疾患の改善にもつながります。

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