春眠暁を覚えず

 どうかすると、春になると季候が良くなってつい寝坊してしまうといった意味で使われる“春眠暁を覚えず”ですが、東洋的な考え方から言えば、春になると日の出の時間が早くなって、いつもと同じ時間に起きても暁=夜明けの状態は過ぎてしまっているという事を表していると考える方が自然です。

 春は寝坊しやすいといった意味にとらえられるようになった原因としては、春の季節は“木の芽時”や“五月病”という言葉があるようにストレスの影響を受けやすく、疲れているけど寝付けないとか、一晩中夢ばっかり見ていて熟睡できないといった睡眠障害が発生しやすい時期なので、朝すっきりと起きられなくなる人が増えることで、春は寝坊しやすいというイメージが“春眠暁を覚えず”という言葉に投影されているのかもしれません。

 そもそも東洋医学的な養生法としては、春に備えて冬の間は栄養のあるものを摂ってあまり体を動かさない方がよいとされ、春になれば日の出も早く暖かくなるので早めに起きて体を積極的に動かすべきであるとされています。謂わば自然と同調することが養生の基本ですので、敢えて付け加えれば、「春になって日の出が早くなったら、冬の季節よりも早めに起きた方が良いのはわかっているけども・・・」くらいのニュアンスは感じられますそういった意味では欧米を中心に採用されているサマータイム(夏時間)というのは節電が主な目的のようですが、東洋的な養生法の観点からは優れているといえます

 また、若い方に多いですが、日常的に夜更かしをしている人で朝起きられないという場合は、春になったら無理矢理にでも早起きをしてみることをお勧めします。夜になって眠たくないのに無理矢理眠るというのは難しいですが、眠たくても早く起きるというのは自分の意志で可能なことですし、別に夜更かしをしていない人でも春になれば冬の季節よりは早起きする方が養生法の理屈にはかなっています。

 現代医学でも、遅くとも夜中の12時までには熟睡状態になっていないと成長ホルモンの分泌が低下して健康に悪影響を与えることが知られていますが、そういった1日の中の生物学的なリズム(サーカディアンリズム)に関する研究が進めば、季節的なリズムについてもやがて解明されてくると思いますし、そうなれば東洋的な養生法の正しさが科学的に解明されるものと思います。

 尚、心身ともに疲れているのに寝付けないとか、夜中に夢ばっかり見ていて熟睡できないような場合は、漢方的には肝血を補うような処方が用いられ、寝付きは良いけれど夜中にはっと目が覚めるといった場合には、気の流れを整えるような処方が用いられます。

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