臓器移植法案~脳死について

 国会では臓器移植法案の審議が続いていますが、つまるところ「脳死は人の死か」が論点になっているようです。どうやら“臓器移植に限り”脳死を人の死とするという方向で調整が進んでいるみたいですが、誰しも迷うところが大きい問題といえます。

 脳死では人工呼吸器を使用しなければすぐに心臓が停止するとされているものの、脳死後も1年以上心臓が動き続けたという報告もあるようです。反対に脳死を人の死と認めない場合は、いつまでも人工呼吸器をつけたままの状態でいることが人間の尊厳を損なうのではないかという議論もあります。

 また、日本国内の腎臓透析だけでも年間に1兆円ものコストがかかっていたり、国内で臓器移植が進まないので海外で手術を受ける人が増えたりと、脳死が人の死かどうかという議論そのものよりも、とにかく日本国内での臓器移植をすすめたいという“圧力”が大きくなってきていることが反発を招いている部分もあるようです。

 しかしながら、この問題について漢方の立場から考えますと、やはり心臓が動いている限り人の死とは言えないと思います。そもそも、漢方の五臓六腑の中に「脳」は含まれていません。漢方の考え方では、「脳は髄の海」と呼ばれ、“精”という生命の根元物質から生じた“髄”が塊となっているところとされているものの、「脳」の機能としては顔にある目、耳、鼻、口がスムーズに機能するようにコントロールしているところと考えられています。

 あくまで漢方理論では、人間の内臓の中で最も重要なものは“五臓六腑の大主なり”とも“君主の官”とも呼ばれる「心」であり、「心」は西洋医学の心臓(血液を全身に送り出すポンプ機能)の機能の他に、精神神経機能をコントロールしていると考えられています。正に「心」=「こころ」という訳ですが、もうすこし詳しく言うと、人間には「魂(こん)」と「魄(はく)」があり、大雑把に言うと前者は大脳新皮質の部分を担い、後者は大脳旧皮質(本能的な部分)を担っており、この両者をうまくコントロールしているのが「神(しん)~“精神”や“神経”の“神”」であり、それが「心」に宿っているとされています。

 臓器移植が盛んなアメリカでは、心臓移植を受けた患者が、前の“持ち主”の性格や記憶も同時に“移植”されたかのような事例が数多く報告されているそうですが、このことは漢方理論と合致しています。因みに「魂」は「肝」に、「魄」は「肺」に宿りますので、心肺同時移植や肝臓移植では、前の持ち主の性格が移行しやすいのではないかと思います。

 と、ここまで考えてくると、脳死の問題よりも、漢方的に考えた場合、そもそも心臓や肺、肝臓を移植することが許されるのかどうかという問題になってきます。要するにこれらの臓器を移植することは、西洋医学の世界に置き換えた場合、脳を移植することと同じような意味を持つと考えられるということです。脳の移植が現代医学の技術で可能かどうかは知りませんが、一般的な感覚では他人の脳を移植したいと考える人はあまりいないのではないかと思います。

 

 

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