社会不安が続くとき

長期化するストレスの影響

今回の新型コロナウイルスの問題は、感染症被害そのものに対する恐怖感に加えて、世界経済の混乱や国内の自粛などによる経済的な問題に対する不安が重なって、人々に与える心理的なストレスが大きなものになっています。

精神的なストレスに関して漢方では五志七情とよばれる様々なタイプのストレスが挙げられていますが、今回は“怒”~本来は“奴”の“心”で、自分の思い通りにならないことに対するイライラ、“思”~今さらどうしようもないことをいつまでもあれやこれやと思い悩む、のほか“憂”や“悲”、“驚”、“恐”などが何ヶ月にもわたって作用している状況です。五行説では五臓それぞれにストレスのタイプが割り当てられてはいますが、基本的にあらゆる精神的ストレスは五臓の“心”に影響を与えますので、今回のような状況では“君主之官”である“心”に相当な影響が及んでいると考えられます。特に日頃から職場や家庭でストレスに悩んでいる方にとっては、ダメージが更に大きくなって様々な身体症状が顕在化しやすくなります。

漢方では“心”がダメージを受けたときにあらわれる代表的な症状として不眠と動悸のふたつが挙げられており、ドキドキしやすくなったり、睡眠状態が悪くなるとされています。また、動悸を感じること自体がストレスとなりやすいほか、睡眠状態が悪くなると成長ホルモンの分泌やストレス抵抗物質であるGABAの合成などがうまくいかなくなります。また、“憂”や“悲”は五臓の“肺”に、“思”は五臓の“脾”にダメージを与えますが、“肺”は一身の気を主り、“脾”は気の主な発生源ですので、“肺”や“脾”がダメージを受けることは気を損傷し、気虚(=ストレス抵抗力と自己治癒力の低下状態)になっていきます。更に、“怒”が五臓の“肝”にダメージを与えることで、気滞が生じやすくなり、その影響は“脾”や“胃”にも及びます。

いずれにせよストレスは気の生成と運行に支障をきたしますが、血や津液(水)、精は気によって運ばれており、気虚や気滞が長引けば、五臓六腑をはじめ全身にダメージを受けることになります(「百病は気より生ず」(黄帝内経))。

 

睡眠状態の改善から

新型コロナウイルスによるストレスであろうがなかろうが、ストレスはまず五臓の“心”にダメージを与えて、睡眠の質の低下を引き起こし、そのことで更にストレス抵抗力が低下するという悪循環に陥ります(因みに現代医学におけるうつ病の診断基準では睡眠障害は必発条件として挙げられています)。やがて、食欲がないとか便通の異常、頭痛やめまい、血圧の変動が大きくなるといった身体症状があらわれてきますが、そういった方は、まずぐっすり眠っていますという事はありません。また、本人も昼間の症状は気になっても睡眠状態にはあまり注意を払っていないことが多く、寝付きが悪いとか、夜中に何度が目が覚めるといったことは主訴として表にでてこないことが多いです。

このようなケースでは、昼間の症状を改善するような処方を試しても効果が現れにくく、昼間の症状よりも睡眠状態を確認して、問題があれば睡眠の質を改善することが最優先であり、睡眠の質が改善すれば昼間の症状も自然と消えていくことが多いです。

睡眠障害のタイプとしては日頃から不安神経症気味の方では寝つきに問題はなくても夜中に何度か目が覚めるとか悪夢にうなされるといったパターンになりやすいですが、このような方は寝る前に麝香製剤を服用することで睡眠の質が改善します。また、日頃から焦りやすい性格の方では、寝つきが悪く、寝ついても睡眠が浅いとか、歯ぎしりなどもしやすくなります。このような場合は寝る前に羚羊角製剤を服用すると効果的です。

このほか、長期にわたるストレスは痛みの疾患の増悪因子となりやすく、麝香製剤や羚羊角製剤で睡眠状態や昼間の症状~動悸や過度の緊張感などを改善することで痛みを緩和する効果も期待できます。

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