秋の夜長に睡眠について考える

日本人の睡眠時間

 今年の9月に厚生労働省から「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」が公表されました。その中の「睡眠の状況」の項目では、「ここ1ヶ月間、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合は 19.7%であり、平成 21 年、24 年、26 年、28 年の推移でみると、有意に増加している。性・年齢階級別にみると、男女ともにその割合は 20~50 歳代で2割を超えている」と記されています。もともと日本人の睡眠時間は世界的にみても短いといわれていましたが、近年、その傾向は更に進んでいるようです。

 睡眠時間と健康の関係では、今年の夏にもNHKスペシャルで“睡眠負債が危ない”と題してとりあげられ、慢性的な睡眠不足が知らないうちに健康をむしばんでいくことが紹介されていました。同番組によると、睡眠時間が6時間以下の人は4割近くにのぼり、7時間以上眠っている人は26.5%に過ぎないとし、アメリカのペンシルバニア大学などの研究チームが行った実験結果を紹介していました。内容は、睡眠時間が注意力や集中力のテストの反応速度にどう影響するかというもので、6時間睡眠が続くと最初の2日間は、あまり影響が見られないものの、2週間もするとテストに対する反応速度が2日間徹夜した時と同じ程度まで低下していたというものです。また、反応速度がそこまで低下していても脳の働きが低下していることを自覚できていなかったそうです。つまり睡眠時間が足りていないことを自覚できないまま、脳をはじめからだがダメージを受けている可能性が高いことが指摘されていました。特にがんとの関係では、実験的に睡眠不足状態にしたマウスでは癌細胞が増殖しやすくなったとするシカゴ大学の実験結果や、東北大学が2万人以上の女性を7年間追跡調査したところ、平均睡眠時間が6時間以下の人は、7時間寝ている人に対して乳がんのリスクがおよそ1.6倍になることがわかったことなども紹介されていました。さらに、睡眠時間が短いと脳内のアミロイドβの排泄がうまくいかなくなって将来的に認知症のリスクが高くなる事も指摘されていました。

 また、睡眠不足を自覚していない方でも、休日など時間を気にせず寝ていられる状況で普段より2時間以上多く眠ってしまう場合は、睡眠負債を抱えている可能性が高いという専門家の意見も紹介されていましたが、休日に長く眠っても“負債”を解消することは難しく、日常的に睡眠時間を長めに(20代から50代では7~8時間)とるように心がけることが大切とのことです。

睡眠の質も重要

 番組では睡眠時間に焦点を絞って論じられていましたが、睡眠に関してはその質も重要で、寝つきに問題はなくても、ストレスの影響で浅い眠りであるレム睡眠時に神経が興奮して夜中に何度も目が覚めるようでは、成長ホルモンが分泌されるノンレム睡眠を確保できなくなってしまいます。このような眠り方をしていては、たとえ睡眠時間が7時間以上あったとしても健康状態を維持することは難しくなります。このような夜中に何度も目が覚めるケースでは、寝る前に“人に悪い影響を及ぼす邪気を除き、そのため、よく夢をみて飛び起きたり、あるいは寝ていて悪夢にうなされるといったことがなくなる”作用があると神農本草経に記された麝香を主薬とした製剤が有効です。夜中によく目が覚めるようになってから日が浅い場合はその日から効果を実感することもありますが、少なくとも3日間、寝る前に麝香製剤を服用することで、よく眠れるようになることが多いです。また、仕事に追われていたり、寝る直前までパソコンやスマートフォンに神経を集中させていて、なかなか寝付けなかったり、寝ついてからも睡眠が浅い状態が続く場合は、肝気の高ぶりを抑える羚羊角が有効です。

 尚、心脾両虚や肝血虚、あるいは腎陰虚などでは、基本的に深く眠れなかったり、ちょっとしたストレスの影響で睡眠障害をおこしやすいので、長い目で見れば、そういった体質(血分や腎陰の不足)を改善していくことも睡眠の質を向上させるために必要となってきます。

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