感染を予防するために

免疫力=正気
今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは世界中に大きな影響をもたらしていますが、今後はますます免疫力の重要性が認識されていくと思われます。ひとくちに免疫力といっても自然免疫や獲得免疫など、またマクロファージやNK細胞など西洋医学的には様々な切り口がありますが、漢方的には正気を充実させるということにつきます。気の生成に関しては五臓の脾が食べ物から運化した水穀の気と肺の吸入した清気、および先天の腎気が結合して生じるとされており、特に飲食物と脾の機能が重要とされています。よってまずは食養生を通じて快食快便状態を維持することが免疫力の維持には重要となります。特に梅雨時は湿度が高くなり脾の機能低下を起こしやすいので注意が必要です。また、中年以降はだんだんと衰えていく腎を補うことも免疫力の維持には欠かせません。
さて、気のエネルギーの大小はその人の免疫力に直結するわけですが、体内で生成した気が全身をスムーズに巡ることも重要です。気の巡りに関しては心の推動と肺の宣散・粛降作用が関わっていますが、全身をスムーズに巡るためには肝の疏泄作用による調節が重要です。肝は自律神経との関わりが深く、ストレスの影響を受けて気の巡りも乱れやすくなりますが、脾の機能が低下した人などでは気そのもののエネルギーが小さいことと、血も不足しがちで肝に十分な血が蓄えられていないために、肝の機能も低下しやすく、ちょっとしたストレスで気の巡りが滞りやすくなります。よってストレスの影響を最小限にするためにも脾の機能が最も重要になってきます(脾は後天之本)。

生活上の留意点
これから気温も上がってきますが、そのこと自体は人間の免疫力を高めてくれますが、エアコンの冷気や冷たい飲み物などでからだを冷やすことは免疫力の低下に直結します。温度に関しては5年ほど前にアメリカのイエール大学が行った実験で、温度の異なる細胞内におけるライノウイルスの増殖の様子を観察したところ、37℃よりも33℃の細胞内の方がウイルスが増殖しやすかったそうです。これは細胞の温度が下がることで免疫細胞の活性が低下するためですが、体温が33℃に下がることはなくても冬の寒い時期や、エアコンの冷気にあたることで鼻の粘膜の温度は容易に33℃まで下がるそうです(そういう意味では寒い時期にマスクをすることは鼻の粘膜の温度を低下させないだけでも意味があるといえます)。また、冷たい飲み物や食べ物はおなか(脾)を冷やして免疫力の低下に直結しますが、もともと“冷たい”というのは“冷(さ)めた”という意味で、常温でも“冷(さ)めた”ものに違いなく、温かいもの以外はできるだけ口にしないのが賢明です。
次に睡眠時間についてですが、こちらも5年前にカリフォルニア大学サンフランシスコ校が行った実験で、睡眠時間が短いほど一般的なかぜの原因となるライノウイルスに感染しやすくなることが発表されています。また、睡眠時間そのものも重要ですが深い眠りであるノンレム睡眠がしっかり確保されていることも重要です。これはノンレム睡眠時にのみ免疫にも関わる成長ホルモンが分泌されるからですが、眠りが浅かったり、睡眠中に何度か目が覚めるといったストレス性の睡眠障害は免疫力の低下に直結します。

とにかく笑う
最後に簡単にできる免疫力アップの方法としては笑うことです。大阪ミナミの演芸場でガンや心臓病の患者十九人に三時間ほど漫才などを鑑賞して大笑いしてもらったところ、その前後でナチュラルキラー細胞の値が低かった人全員が正常範囲まで増加したほか、高すぎた人の多くも正常値に近い数字になったという報告もありますが、その後の実験で、おもしろいことがなくても作り笑いをしてほほ笑むだけでも同様の効果が見られたとのことです。不安な毎日で笑ってなんかいられないという方も多いでしょうが、参考までに20世紀初頭のフランスの哲学者アランは「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」と記しています。

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