日本は睡眠不足大国

睡眠不足の影響

日本人の睡眠時間は1970年代以降短くなる傾向にあり、OECD(経済協力開発機構)の統計(2019年)では、1日のうちで睡眠に費やす時間は欧米諸国では500分を超えるのに対して日本は442分と最短の水準となっています。厚生労働省の国民健康・栄養調査(2017年)でも日本人の平均の睡眠時間は40代男女の半数近くが6時間未満で、30代から50代の各年代で「睡眠で休養がとれていない」または「全くとれていない」と回答した人の割合が30%近くにのぼっています。働き盛りを中心とした日本人の睡眠時間の短さの背景には、長時間労働や通勤時間の長さなどが背景にあると思われますが、東北大学が2万人以上の女性を7年間追跡調査したところ、平均睡眠時間が6時間以下の人は、7時間寝ている人に対して乳がんのリスクがおよそ1.6倍にもなることがわかったほか、シカゴ大学の研究では、実験的に睡眠不足状態にしたマウスでは癌細胞が増殖しやすくなったという報告もあります。

若年層の入眠困難

さて、睡眠時間の短さにも影響する入眠困難や中途覚醒などの睡眠障害の有病率は、20歳以上の男女で20%近くにのぼるとされています。特にコンビニ弁当や加工食品に頼る食生活をしている若年層を中心とした層では、カロリーは足りていてもミネラル不足になる新型栄養失調とよばれる状態になりやすく、これは、漢方的には“肝血不足”とよばれる状態につながり、イライラしやすくなったり、疲れを感じていても寝つけなくなったり、眠りが浅くなります。その結果、睡眠不足になりやすく、そのことがストレス抵抗力の低下につながり、ストレスの影響を受けやすくなることで更に寝付きが悪くなります。また、“肝血不足”の方は入眠前にスマホなどからの刺激を受けると“肝鬱化風”という状態にもなりやすく、脳が興奮してますます寝つけなくなります。“肝血不足”に対しては、根本的には食生活の改善などを通じて“肝血”を養うことが必要ですが、こういうタイプの入眠障害には“肝血不足”だけなら酸棗仁湯の適応となり、興奮性が強くみられる“肝鬱化風”に対しては抑肝散や羚羊角製剤などの適応になります。

中高年の中途覚醒

中高年の方では寝つけはするものの、夜中にはっと目が覚めるというタイプの睡眠障害が多く見うけられます。背景に何らかのストレスというか不安に思うようなことがあって、レム睡眠とよばれる浅い眠りの時間帯にそのことが気になって目が覚めることが多く、一度そうやって目が覚めた後は、深い眠りであるノンレム睡眠がほとんどみられなくなり、浅い眠りが朝まで続くことが多いとされています。このタイプの方は、入眠障害の場合と違って、睡眠障害であるという自覚がないことが多く、睡眠障害が主訴になることは稀ですが、成長ホルモンが分泌されるノンレム睡眠の時間が減少することで、昼間に様々な不調があらわれやすくなります。このような眠り方をしている人の特徴として、ストレスの影響で寝ている間にからだの緊張が持続することで、朝起きたときに首周りの凝りを自覚するほか、人によっては背中や腰の筋肉の痛みが出ることもあります。また、神経の緊張から尿意をもよおしやすくもなります(腎虚による夜間尿と違って尿量は少ないです)。

ノンレム睡眠に関しては、ロチェスター大学の動物実験では、ノンレム睡眠時に脳細胞が縮んで脳細胞間の隙間が約60%も広がり、アミロイドβ蛋白質などの老廃物を排出しやすくしていることも確かめられているほか、ワシントン大学による調査でも、睡眠の質が良い人ほど脳内のアミロイドβタンパク質の蓄積が少ないこともわかっており、ノンレム睡眠の減少は認知症リスクを高めるおそれがあります。

このようなケースでは、神農本草経にその薬効として「悪気を避けさせ、幽霊やもののけのたたりを消し去るほか、人に悪い影響を及ぼす邪気を除き、そのためよく夢をみて飛び起きたり、あるいは寝ていて悪夢にうなされるといったことがなくなる」と記されている麝香が最も有効です。

 

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