ストレスの“正しい利用方法”

ストレスチェック制度

 春は自律神経と関係の深い“肝”の季節であり、特に日本では4月から年度が替わるところも多く、周りの環境が変化しやすい時期と重なることからストレス性の疾患が顕在化しやすくなります。

 ストレスといえば、昨年の12月から労働安全衛生法が改正され、従業員が50人以上の企業に対して、ストレスチェックを実施することが義務づけられました。厚生労働省の実施マニュアルには「仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が、平成18年以降も増加傾向にあり、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが益々重要な課題となっています」とあり、「労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること」を主な目的としているとあります。

 現状はこのような制度が法制化されるほどストレスが充満しているということだと思いますが、精神的なストレスは職場以外にも多々あるわけですし、ブラック企業などへの抑止効果は期待できても、従業員が全くストレスを感じない職場など実現不可能だという意見もあり、その効果を疑問視する声もあるようです。

 ところで、こうした議論をみていると、日本の社会では、ストレスは“悪”であり、緩和もしくは排除すべき対象とされていることがわかりますし、一般的にもストレス=“悪”という概念は根強く浸透しています。

 漢方では精神的なストレスに関して、五志七情とよばれる情志が過度になることで“気”の乱れを生じたり、臓腑間の失調をきたして様々な疾病を発症するとされていますが、ストレスが問題というよりも、あくまで本人のストレス抵抗力の範囲をこえたときに問題になるということと、ストレスが全くない状態に関しても“安逸過度”といって致病因子のひとつに数えられており、単純にストレス=“悪”とは考えません。

 

ストレスで幸せになる

 さて、アメリカに於けるストレスに関する研究では興味深いデータがあります。すなわち、ストレスというものに対する認識によってダメージを受ける場合もあれば、むしろ健康に役に立つこともあることが心理学的な実験や大規模な疫学調査で明らかになっています。簡単にいうと“ストレスは有害である”と考えるか、“ストレスは人を成長させ健康にする”と考えるかによって、ストレスに遭遇したときに実際に自分の考えているとおりの結果になるそうです。

 また、ストレスを受けているときには、どんなに忙しくても“1日にひとつ、誰かの役に立つ”ことを実践することで、かえって余裕のなさや恐怖感が薄らぐそうです。更に、自分自身の目標を追求していくと孤独感が強くなるものの、自分の属している大きな集団の目標を意識することで発想が豊かになったりワクワクした気持ちになることが指摘されています。

 別の調査では、121カ国、12万人以上を対象に「あなたは昨日、大きなストレスを感じましたか?」という質問をして、「はい」と答えた人の割合をストレス度指数として集計したところ、ストレス度指数の高い国ほど平均寿命もGDPも高く、国民の幸福度や満足度も高いという結果になったそうです。つまり幸せな生活にはストレスが存在し、ストレスのない生活は必ずしも幸せとはいえないということのようです。

 実際に、ストレスを多く経験した人ほど人生に生きがいを感じる傾向がみられ、日常を非常に退屈だとこたえた中高年男性では、その後20年間に心臓発作で死亡するリスクが2倍以上も高くなるというデータもあり、少なくともストレスの欠如は人を不幸にすることが示唆されています。

  以上のことから、日本のようにストレスは体に悪いという大前提で議論が進むこと自体、いかがなものかという気がしないでもありません。ニーチェの言葉に“人は病そのものより、病であるという事実によってより苦しめられる”というのがありますが、日本はこのニーチェの言葉の中の“病”を“ストレス”に置き換えたようなもので、ストレス=“悪”と決めつけずにストレスの有効活用にもっと目を向ける必要があると思います。

 

(参考図書:ケリー・マクゴニカル著 スタンフォードのストレスを力に変える教科書) 

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