ガッツもなくなる梅雨の空

 梅雨時は、じめじめして体調を崩す人も多くなります。もともと日本の年間降水量は全国平均で千六百ミリくらいあって、世界平均の2倍近くもあります。台風などが通過すると二、三日で数百ミリもの雨が降るわけですから、西日本などでは年間に三千ミリ以上降るところも珍しくありません。とにかく、日本は梅雨の季節以外でも雨が多く、水資源に恵まれているといえばそうですが、湿度の高い環境は日本人の体質面に大きな影響を及ぼしています。

 

 漢方の考え方では、健康に害をなす環境因子である六淫(風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪)の一つである湿邪は、五臓の中でも特に脾の機能を低下させるとされています。つまり、湿度の高い日本で生活することは、それだけで胃腸機能が低下しやすいことになります。漢方では“脾は後天の本”とされ、健康な生活を送るためには胃腸機能が正常であることが最も重要とされています。これは、胃腸の機能に問題があると飲食物から“気”“血”“津液(水)”“精(後天の精)”といったエネルギーや栄養物質を体内に取り込むことができなくなる為で、脾の機能が低下した状態では、いくら栄養のあるものを食べたとしても文字通り脾弱(ひよわ)なからだになってしまいます。

 

  また、脾に限らず冷やすことは臓腑の機能低下をきたしますので、昔から日本で健康を維持するためには、湿気は避けがたいので、せめておなかを冷やさない事が重要視されてきました。それが、昭和の高度成長期の頃から冷蔵庫の普及や欧米の食文化の移入が進んだことで、ただでさえ弱い日本人の胃腸機能がガタガタになっている事が現代日本の疾病構造のベースになっているように思われます。(蛇足ながら、胃腸機能に問題があるからといってレントゲンや内視鏡などの器質的な検査で異常が見つかるとは限りません。)

 

  世界中の食べ物があふれていても、脾の機能低下によって“気”“血”“津液(水)”“精”という物質が不足することで全身に様々な影響を及ぼし、アレルギー性疾患の蔓延や、ウイルスや細菌に対する抵抗性の減少、ストレスに対する抵抗力の低下、不妊症など現代日本で増加している疾患の大きな要因となっています。

 

  さて、梅雨の季節、湿度が高くなると普段は胃腸が丈夫な方でも上述のように胃腸機能が低下して食欲がなくなったり、おなかをこわしやすくなります。また、“うっとうしい”という言葉に表されるように、湿気は“気”の流れを邪魔しますので、梅雨の季節は胃腸が弱い人ほど、からだが重だるく感じられ、気力も低下しやすくなります。このようなときには、栄養剤を服用するよりも“気”の流れを速やかに回復させる麝香の入った気付け薬が最も効果が期待できます。更に、温度の上昇を伴っているときは牛黄が、熱中症になりそうなときは蟾酥が有効です。

 

  ところで、胃腸がしっかりしていないと気力が湧かないというのは、洋の東西を問わず人類共通の認識のようで、勇気や気力あふれる様を表す“ガッツ”という単語ですが、英語本来の意味は‘はらわた’=胃腸のことです。即ち、胃腸がしっかりしていないとガッツもなくなるということです。

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