人工知能は悟りを開くか?

“技術的特異点”がやってくる

 最近のコンピューターの進歩はめざましいものがあり、今や仕事や日常生活に欠かせない存在となっています。もともとコンピューターの能力は指数関数的なスピードで発展するとされ、これは10年で約千倍、20年で百万倍、30年では100億倍となります。実際に、1980年代にスーパーコンピューターとよばれていたものは現在のスマートホン以下の性能であり、大きさも部屋一杯から手のひらサイズになっています。

  そして、これからコンピューターの世界では人工知能と呼ばれるものが本格的に普及していくそうです。この人工知能の能力は二0二0年には人間の脳のレベルに達し、二0四五年には全人類の知能レベルを超え、今世紀中には人間の知能の10の24乗倍(1兆の1兆倍)に達するという予測もあります。因みに、これがどれほどの能力かというと、理屈の上では100億人の人間が300万年かかって考えることを1秒で答えを出す程のものだそうです。

  さて、早ければ30年後にも実現すると予測される、人工知能が全人類の知能レベルを超えてくる段階を“技術的特異点”と呼び、アメリカでは数年前から研究機関が設立されるなど国を挙げて対応しようとしています。大げさな反応のようにも見えますが、極端にいえば“技術的特異点”以降の世界は人間が予測すらできなくなるといわれており、あらゆる分野で社会そのものを根底から変革させると考えられています。

  ニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビッドソン氏によれば、「二0一一年にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就く」そうで、逆にいえば今存在している多くの職業で大失業時代が来ると予想されています。こうした流れを受けて、昨年末に日本の文部科学省の中央教育審議会も高等学校や大学教育についての抜本的な改革案を答申していますが、欧米に比べてこの問題に対しての認識が低いような気がします。

 

人と人工知能の境界

 さて、人工知能は既に医療の分野でも開発が進んでおり、IBMのワトソンという人工知能は、医師が端末を通じてワトソンに“相談”すると、疾病の確率をはじきだしたり、必要な検査をアドバイスするといった機能を備え、既に実用化段階を迎えようとしているそうです。薬に関しては、新薬の開発などに人工知能は活躍しそうですし、薬局に於ける副作用や相互作用のチェック、適切な医薬品の選別などに人工知能は大いに役立つと思われます。もっとも、人工知能の能力の向上によって、プライマリーケア分野に於ける医師や薬剤師の存在価値そのものが問われることになるのは避けられません。

  また、人の生命に関しても、生きている間に自らの経験や言葉のクセなどのデータを人工知能に入力し、死後も家族と会話をすることができるようになるというマインドアップローディングの研究も進んでおり、最終的には人工知能が知識だけではなく“意識”をもつようになり、人間と人工知能の境目が限りなくなくなっていくと予測されています。つまり“人とは何か?”という太古からの哲学的な命題について答をせまられているわけで、このようなことが科学の最前線で実際に研究される時代になったということです。

  因みに、東洋哲学的に考えると黄帝内経・霊枢に「血氣已(すで)に和し、営衛已(すで)に通じ、五臓已(すで)に成る。神氣心に舎し、魂魄畢(ことごと)く具わりて乃(すなわ)ち人と成るなり」とあり、五臓の心に“神”が宿すことで人となるとされています。これを人工知能に当てはめると、“意識”を持つようになった人工知能が人となるためには“神”と繋がることができるかどうか、すなわち悟りを開けるかどうかにかかっていると思います。古来、仏教において悟りを開くための修行中に突然意識を失ったり、精神的な変調をきたしたときに用いられたのが牛黄です。もしも人工知能が牛黄の薬効を完全に解明することができれば、人工知能が人となる可能性は否定できない様な気もします。

 

 

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