慢性疲労症候群と高貴薬

慢性疲労症候群は脳内の炎症と機能低下

 今年の四月に理化学研究所と大阪市立大学、関西福祉大学の共同研究グループにより、慢性疲労症候群の患者では健常者と比べて脳神経の炎症反応が広く見られ、炎症の生じた脳部位と症状が相関することを突き止めたとする発表がなされました。これまでも患者の脳内での血流量の低下やセロトニン輸送体の密度の低下などから脳機能の低下が関与しているとされていましたが、今回、脳内の炎症に関与している神経系を構成する免疫担当細胞のマイクログリアやアストロサイトの活性化をPETを用いて可視化することで脳内の炎症が起こっている場所で脳機能が低下していることが確かめられたものです。

 慢性疲労症候群とは、軽度の労作により極度の疲労をおぼえ半年以上も正常な日常生活をおくれなくなるもので、通常の検査では異常が見つからず、治療方法も確立されていません。労作後の極度の疲労感以外には急性のインフルエンザ様症状やウイルスに対する抵抗力の低下といった免疫機能の低下、睡眠障害、胃腸機能や便通の異常、発汗や尿意切迫、ほてりや四肢冷感といった体温調節不全など人によってさまざまな症状があらわれるようですが、慢性疲労症候群は海外では筋痛性脳脊髄炎ともよばれているように頭痛や筋肉痛、関節痛などの痛みを伴うことが多いようです。

 痛みに関しては、明かな病変が見つからないのに痛みをうったえる非特異的腰痛患者でも脳内の血流量の低下から脳内鎮痛物質の分泌がなされないことが原因であるとする報告もあり、慢性疲労症候群における痛みとも共通性があるのかもしれません。また、今回の発表では海馬の炎症が強い場合には抑鬱症状が強く出ることもわかり、うつ病の診断基準で必発条件とされる睡眠障害を伴う場合ではうつ病と診断されているケースも多いのではないかと思われます。

 

まずは“気つけ”が大事

 薬局に相談に来られる患者さんの中にも慢性疲労症候群と確定診断されないまでも慢性的な疲労や不眠をベースに、中耳炎や扁桃腺炎を繰り返す方もよく見かけます。特に季節の変わり目や梅雨時から夏にかけて湿度が高くなる時期に多いように思います。背景には何らかのストレスだけでなく飲食の不摂生による胃腸機能低下や口呼吸なども見受けられます。

 このような患者さんの自覚症状を漢方的にみた場合は、疲労感という部分からは、胃腸機能低下による気虚の症状が中心で、ほてりや熱感を伴う場合は気虚発熱といった補中益気湯などの人参剤が適応するケースや、ストレスの影響で気滞により少陽経に熱がこもった柴胡剤の適応となるもののほか、瘀血の存在も考えられます。また、病院を受診しても特に異常が見つからないケースも多く、そのことが余計に患者さんにとっては大きなストレスとなるばかりか、長期におよぶ体調不良は症状そのものがストレスとなることもあって、時間とともに気虚や気滞が強くなっていきます。

 このような患者さんでは、不安感が強いケースでは麝香製剤を一日に三回服用してもらうことで、速やかに気の巡りを回復してもらうこと(気つけ作用)で何らかの自覚症状の改善を実感してもらうことが重要で、その後に胃腸機能の低下などの改善を目指すのが良いように思います。また、不安感よりも焦りやイライラといった症状が強く出ているときは麝香よりも羚羊角や牛黄製剤が効果的なケースが多いです。

 実際に、これら高貴薬と呼ばれる生薬には脳血流量の改善作用や脳神経保護作用などが認められるほか、牛黄などには抗活性酸素作用も知られており、今回の理化学研究所などによる慢性疲労症候群に関する研究発表は、これらの高貴薬の有効性を証明する手がかりとなるかもしれません。

 

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