冬の夜更かしは寿命を縮める

概日リズムと子午流注

 昨年のノーベル生理学・医学賞は概日リズムを生み出す遺伝子機構の発見に対してアメリカの3人の学者におくられました。概日リズムとは簡単にいえば、体内時計ともよばれるように、朝になると昼間の活動にそなえて血圧が上昇しはじめ、夜の時間帯には免疫細胞が活発に活動をするなど、人体内部において24時間のリズムで様々な生理現象が行われていることを指しますが、なかでも睡眠や栄養摂取などに関して体内時計に沿った生活をすることが重要とされています。特に睡眠に関しては、真夜中の12時を中心として前後1~2時間の間に深い睡眠であるノンレム睡眠の状態になっているときに成長ホルモンが最も多く分泌されることが知られています。そのほかにも、最近の英国に於ける研究では、夜間に負った外傷は昼間に負ったものよりも治りが遅く、午後8時から午前8時の間に発生したやけどが95%回復するのに平均28日かかるのに対して、昼間のやけどは平均17日間で回復したそうです。この研究者によれば人の皮膚細胞の傷がどれだけ早く回復するかに関して体内時計が大きく関与しているとしています。

 この概日リズムに関する研究は西洋では20世紀の前半に光の照射に関係なく夜になると葉を閉じる植物の研究から始まったそうですが、漢方の世界では、もともと人体も自然の一部と考えられており、自然のリズムに沿って生活することが養生の基本とされており、1日の中で時間帯によって気血がどの十二経脈を流れるのかといった子午流注という考え方もとりいれられています。また、1日だけでなく1年の中で季節による陰陽の盛衰までも考えた生活リズムが重視されてきました。

冬の季節の睡眠について

 さて、冬は“腎”の季節であり、来るべき春の活動期に向けて栄養のあるものを食べて“精”を養うべき季節とされています。現代社会においてはあまり意識されることがないですが、人間は恒温動物であり、寒いというだけでも体温を維持するためにエネルギーが多く必要となるわけですが、生命の熱エネルギーの大元である腎陽(命門之火)は“精”をもとに発現するとされ、寒い季節はじっとしていても暖かい季節に比べて“精”を消耗することになります。

 また、1日の中で子の刻(夜11時から午前1時)は、自然界の陰気が最も盛んになる時間帯であり、陰気には静かで落ち着いた状態が必要とされ、この時間帯までに眠りについていることが陰気を養うために重要とされています。よって夜更かしは陰を損なう(注:“精”は陰陽でいえば陰)とされ、夜更かしが続くと若い人でも“精”を消耗し、“精を蔵す”五臓の“腎”に影響し、腰のだるさや頭がぼんやりするなどの腎虚症状があらわれやすくなります。更に、夜更かしする原因として受験勉強やゲームに熱中するなど、“精”から生じる“髄”の集まったものとされる脳を使うことは、それだけでも“精”の消耗につながります。夜にできた傷の治りが遅くなるというのも漢方的に考えると、陰の時間帯である夜に陰陽でいえば陰に属する肉体が傷つくことでダメージが大きくなると考えられます。

 一般的に“精”を消耗する原因としては過労や加齢、房事過多などが知られていますが、夜遅くまで勉強するにせよ、ゲームをするにせよ、頭脳を酷使した上に、子の刻にぐっすり眠らないことは“精”の消耗を加速させます。また、以前にも紹介しましたが、西洋医学的にも睡眠の質が良い人ほど脳内のアミロイドβタンパク質の蓄積が少ないこともわかっていますが、いずれにせよ“精”の消耗は老化を促進して寿命を縮めます。

 もちろん冬に限らず睡眠不足や、昼夜逆転の生活は健康に悪影響を及ぼすことは明らかですが、冬の季節は特に“精”を養う必要があることから、不規則な生活から受けるダメージは大きくなります。また、“精”が不足しているからといって鹿茸や亀板などで“精”を補うのは理にかなってはいますが、現代においては、特に睡眠に関して適切なアドバイスをすることは更に重要です。

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