血液さらさらと発がん

ワールブルグ効果

約100年前に、がん細胞は正常な細胞と違って、ミトコンドリアによるエネルギー産生をせずに解糖系だけでエネルギーを得ているという事実が、ドイツの医師で生理学者のオットー・ワールブルグによって証明されています。彼の論文によれば、培養した正常な細胞を低酸素の環境に置くと、大半の細胞は死滅するが、低酸素の環境下でも解糖系だけを使ってエネルギーを産生することで生き残る細胞が現れ、やがてその細胞が増殖する現象がみられたというものです。その後もドイツ国内でワールブルグ効果に関する研究は続けられ、2020年に発表された論文では、酸素が欠乏した状態で低酸素誘導因子によって細胞の遺伝子がエピジェネティックな変化をすることでがん細胞が発生するとしています。

京都大学名誉教授の和田洋巳博士によると、多くの固形がんが発生するプロセスとして、まず高脂血症や高血糖などにより血管内皮にプラークができることで血管壁の肥厚が起こり、そのことによって白血球が鬱滞し、鬱滞した白血球同士の反応から炎症性サイトカインが産生されることで血管が慢性炎症状態に陥る。また、細動脈で赤血球も鬱滞することで酸素が運ばれにくくなるが、血漿成分は流れるので、臓器の上皮細胞において、栄養は豊富にあるが酸欠状態になり、細胞の死滅や脱落が起きる。次に、臓器の上皮細胞に於いて修復のための増殖と死滅が何度も繰り返され、上皮細胞の過増殖が起きて、より多くの酸素が必要になり更に酸欠状態が進むという悪循環に陥る。やがて酸素なしでもエネルギーを作り出せる細胞が生まれ、その細胞ががんになっていくというものです(※1)。尚、慢性炎症に関しては、赤血球にダメージを与えて酸素運搬能の低下の原因になるほか、がんの転移や浸潤にも深く関わっているとしています。

血液さらさら

上記のように、多くの固形がんの発がんに酸素の欠乏が関わっている訳ですが、その予防という点では高脂血症や高血糖などにならないように食生活を始め、生活習慣の改善が根本的に必要となります。また、それと並行して血液、特に酸素を運ぶ赤血球が体の隅々にまでスムーズに流れていくようにすることが重要です。西洋薬でも“血液さらさら”という言い方をされる薬がありますが、低用量アスピリンを始め血小板の凝集能を低下させて血栓をできにくくするものであって、血管の9割以上を占める毛細血管の血流を良くする作用はありません。これに対して漢方で駆瘀血薬や活血薬とよばれるものは赤血球の変形能を高めることで微小循環を改善する作用が知られており、特に丹参などは毛細血管の血流を改善するとともに抗酸化作用にも優れています。丹参製剤は心臓病などのほか糖尿病による合併症である血管障害からの腎症の改善などにも応用されていますが、毛細血管の血流を良くする効果は発がんの予防にもつながります。

ところで、活血剤には分類されませんが、牛黄と人参の組み合わせは、ラットを用いた動物実験で赤血球変形能を改善するほか、赤血球集合能抑制、血小板凝集抑制、LDLコレステロールの酸化抑制など、瘀血とよばれる病態に対する薬理作用が認められており(※2)、このことは発がんリスクの高い方のがんの予防にも効果が期待できると思います。

牛黄は開竅薬であり、開竅薬とは人体を制御している“神”とのつながりが切れそうなときに、“神”とのつながりをしっかりつけるためのものです。もともとがん細胞とは正常に働いていた自己の細胞が変異したものですが、前漢時代の『淮南子』に“神は形より貴なり。故に神(形を)制すれば則ち形従ひ、形(神に)勝れば則ち神窮す”とあり、細胞ががん化してどんどん大きくなっていくことは“神”の制御が効かなくなって生命を脅かすような事態になることですので、牛黄のような開竅薬で“神”とのつながりをしっかりつけることががん患者さんの延命にもつながると思います。

(参考文献 ※1「がん劇的緩解」和田洋巳 著、※2「牛黄、人参製剤、霊黄参の薬理作用(第5報)―血液レオロジーに対する作用―」救心製薬株式会社 総合研究所)

 

関連記事

  1. 漢方から見た「食」と子どもの健康

  2. 耐性菌問題からみた現代医療のアイロニー

  3. アルツハイマー病について

  4. 牛黄は究極の“気つけ薬”

  5. 蟾酥の抗ガン作用について

  6. 老化と陰虚と炎症