食のリスク学

Photo  著者の中西準子さんは、東京大学や横浜国立大学の教授を経て独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長という肩書きをお持ちの方です。もともと環境問題に取り組んでこられた方で環境リスク学~環境影響をリスクという形で定量的に評価し、それを基に環境問題解決のための意志決定をする学問(本書より)~という研究分野を立ち上げられた方です。また、環境問題の中に食の問題が多く含まれており、いつのまにか食の問題に対してもリスクを評価するようになったとのことです。

 本書の中で著者も指摘していますが、食の安全に関しては、マスコミの取りあげ方もセンセーショナリズムになりがちな上、公的機関による安全性の評価でも科学的とは言えないデータの解析がまかり通っていたり、一般の人々の根拠のない思いこみなど様々な非科学的な要素が絡み合って、何が正しいのかよくわからないという現状があると思います。

 そういった現状に対して、リスク評価の視点から「食の問題」を具体的な例を多数挙げながら解説されていますが、読んでいて目からウロコがぽろぽろと落ちていくのがわかりました。とにかく言えることは、食の安全に関しては、100%は無いし、もともと100%である必要もないということだと思います。ただ、その中で一部の世論や感情に流されたりせず、あくまでも科学的にリスクを評価し、どういう選択肢が最善であるかを考えていくことが重要と言うことだと思います。

 例えば、1991年にペルー政府がトリハロメタンによる発ガン性のリスクをゼロにしようとして水道水の塩素消毒を止めたところ、翌年にかけて水道水が原因でコレラが蔓延し80万人が罹患し7000人近くが死亡したという事例を挙げて、トリハロメタンの発ガンリスクの評価とそれをしないことによるリスクを冷静に分析すれば防げたとしています。

 その他にも、BSE問題、メラミン混入問題から健康食品などについてリスク評価の観点から見た場合の問題点などを解説されており、常々こういった問題に対してマスコミの報道の低俗性にうんざりさせられている身からすれば“なるほど”と納得させられる部分が多かったです。

 尚、著者の中西準子さんのブログはコチラ

(日本評論社、 2010年1月、2100円)

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 特定の食品を取りあげて身体に良いとまくしたてる、あるいは反対に有害性を強調するといったフードファディズムの問題や、有機栽培の野菜は無条件で身体によいのか?とか、自然のものだから安全とは限らないとか、耳の痛いことも書かれています。また、漢方薬に関しては、「永年使われてきたから」「天然のものを原料にしているから」”安全”とは言えないといったような事も書かれてあります。

 いちいち仰る通りだと思いますが、漢方薬に関しては「自然のもので永年使われてきたから安全」という気はさらさら無いものの、その安全性というか有用性に関して決定するのは中に含まれている成分によるものではなく、それを服用する方の漢方的な体質分析の精度によるところの方が圧倒的に大きい筈だというのは強調しておきたいと思います。

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