教育現場での「食育」の現状

 先日、某県の教育委員会食育推進委員長さんのご講演を聴く機会がありました。今まで学校関係の方達から“漢方から見た食育”といった演題で講演を頼まれたりしてきましたが、教育関係者から食育についての話しを聞くのは今回が初めてでした。

 講演自体は短いものでしたが、まず、学校の教育現場で「食育」の課題と考えられるものとしては

1.豊かな人間形成を目指す

2.生活能力を磨く

3.食文化を継承する

4.健康に生きる知恵を磨く

5.環境の大切さを学ぶ

6.食料自給力を守る

の6つが挙げられているとのこと。

 どれもこれもごもっともなことで、異論を差し挟む気はないのですが、話しを聞いていて、食育そのものよりも食糧自給率を上げる事を通じて日本の農業の振興をはかりたいという事が目的化しているような論調だった事にすごく違和感を感じました。断っておきますが、個人的には日本の食糧自給率を上げる事や日本の農業を振興することに反対する気は毛頭ございませんし、それはそれで大いにやっていただきたいのですが、学校教育現場に於ける食育そのものが“目的”ではなく、日本の農業問題へ目を向ける“手段”として利用されている部分もあるのかなと勘ぐりたくなったのは事実です。

 その証拠に、上に挙げた6項目が記された資料によると、各項目には更にいくつかの課題がそれぞれ記されているのですが、「地産地消」が6つの中でどこに含まれるかというと、何と6番目の「食糧自給力を守る」の中の1項目として挙げられていました。「地産地消」という言葉は、最近よく目にするようになってきて、喜ばしいことだと思ってましたが、こうした利用のされ方で広まっているとは思いもよりませんでした。本来の「地産地消」という言葉の意味からすると「食文化を継承する」もしくは「健康に生きる知恵を磨く」の中に含まれるべき項目ですが・・・その他にも「食文化を継承する」という項目の中の「石油に依存しない暮らし」や「環境の大切さを学ぶ」という項目の中に「フードマイレージ」や「バーチャルウォーター」という項目が並んでおり、具体的なことは書かれていませんでしたが、どれも最終的には日本の食糧自給率を上げようという結論に導かれているだろう事は想像に難くありません。

 日本の食糧自給率が100%になれば、食育の必要性もなくなると言うなら別ですが、こういう事では現場の先生方も混乱するのではないかと思いますし、食育に関して本質的な議論も生まれてきそうにもないと痛感いたしました。

注)“地産地消”とは、言うまでもなく「地元でとれた食材を使いましょう」という事ですが、この言葉の意味するところは、人間は膨大な時間をかけて、その土地で採れるものの中から身体によいものを選別して、食材としてきたし、そういった食材で健康を維持できるような代謝構造を持った個体だけが生き残ってきたわけで、それゆえ、地元で採れる食材を食べる方が身体に良いという意味です。

 反対に言えば、気候や風土が違えば、ある土地に住んでいる人にとっては身体に良いものでも、違う土地の人の身体にも良いという保証はありませんよという事になります。日本の食糧自給率を上げたいのなら、そういった説明をした上で“地産地消”を推進すれば良いものを、食糧自給率を上げないと、いざという時に困るから、地産地消を心がけましょうと言われても説得力に欠けますし、その事と食育に何の関係があるのかがよくわかりません。

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