日本人の正しい食事

Photo  明治時代に陸軍の薬剤将校まで勤めた石塚左玄の食養の考え方をベースに、日本人にとって「正しい」食事とは何かを医学博士でもある著者が様々な角度から述べています。

 明治になって欧米の栄養学が日本にも流入し、その栄養素を中心とした考え方が、日本の風土や日本人の伝統的な食習慣などを無視していることを批判した石塚左玄は、

・歯の形や腸の長さから人間は草食動物でも肉食動物でもなく、穀食動物である
・玄米からは芽が出るが、白米からは出ない。命が命をつくるのだから玄米を食べるべき
・生きているものは全体を食べる(尤も、先祖代々食べられなかったものまで無理して全体を食べる必要はない)
・祖先の体験してきた「食べ物の食べ方」に、順化適応してきた体である事を認識すべきである

という事を主張してきたことを紹介し、著者自身の考える、自然の法則に則した食事について次の6つのポイントを挙げています。

・現代の食品栄養分析を鵜呑みにして、世界中の人間に一律に適用しようとするのは大きな間違いである
・先祖代々住んできたその土地の風土性を重視すべきである
・健康にとって重要な働きをしている腸内細菌バランスを考えても菜食を中心に、その土地の風土にあったものを食べる方が良い
・胃腸も使えば発達し、使わなければ退化する〜「栄養価値の高い、消化吸収の良いもの」は、寝ていて仕事をしない方が楽だと言ってるのと同じ
・体を動かして、新陳代謝を高め、空腹感を感じた上で食べる事が重要。また、世界各地の食材と言うより、風土に根ざした単調な食べ物の方が腸内細菌には良い
・病弱な人、病気の人が何を食べればよいのかは、専門家の領域である

 更に著者は、現代日本人の食生活を考えるときに、「食生活の問題は単に食べ物というモノの問題ではない」「卑屈な欧米崇拝と劣等感が、日本人の食生活をゆがめてしまった」「日本人の伝統的な食生活の見直し」なども考慮すべきであるとしています。

 特に、「卑屈な欧米崇拝」は明治維新に始まり、その後第2次世界大戦後の本格的な食の欧米化が始まり、これほど短期間で食生活が変化したというのは人類史上例を見ないことは、多くの学者が指摘しています。その結果、日本人がより健康になりましたというのなら問題はないのですが、花粉症やアトピーの蔓延、O−157やノロウイルスによる健康被害の増大、メタボリックシンドロームなど様々な問題が生じてきており、更に農薬やポストハーベスト、食品添加物の問題などもからんで、混乱をきたしているというのが現代日本の状況だと思います。

 漢方の考え方でも、漢方薬や針灸治療以前に、食を中心とした「養生」が大前提としてあるわけですが、その土台部分がガタガタになっているのが現代人であり、昔なら「常識」とされていた「お腹を冷やさない」「夜に寝る」「季節のものを食べる」といった事からアドバイスしなければならないのが現状です。

(「日本人の正しい食事」〜現代に生きる石塚左玄の食養・食育論、著者:沼田 勇、発行所:(社)農山漁村文化協会、2005年3月25日 初版)

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