コロナ禍の中の春

春は“肝”の季節

春は五行説によれば“木”であり、五臓では自律神経と関係が深い“肝”になりますが、春は木が芽吹くように、肝気が活動を始める季節とされ、この時期にストレスを受けていたりすると、気の巡りが滞りやすくなり、神経症状を始め“肝”が主るとされる筋肉や胃腸の調子が悪くなるほか、“肝は目に開竅する”で目の症状などが顕在化しやすくなります。特に一年以上続くコロナ禍の影響で、ほぼすべての人が“肝”に直接影響する“怒(自分の思い通りにならないことに対してイライラするといった感情)”というタイプのストレスにさらされていることもあり、例年以上にストレス症状に悩まされる人が増えそうです。コロナ禍によるストレスに関して補足すると、人類にとって近代に至るまで死因の多くが感染症によるものであったことから、感染症に関する情報に敏感であることが生き延びるために必要とされてきた歴史があります。そのため、連日のように流される新型コロナ関連の報道に見入ってしまい、不安や焦りの感情が増幅されるばかりか、感染者に対する過剰なバッシングにつながるとする意見もあります。

スマホの影響

世界的にベストセラーになった「スマホ脳」の著者でスウェーデン生まれの精神科医であるアンデシュ・ハンセン医師によると、スマホが世界的に普及し始めた2012年以降、先進国を中心に若者の間で精神的な不調をうったえる人が爆発的に増加しており、米国における調査では、スマホやパソコンの前で過ごす時間が長くなるほど気分が落ち込んだり、自らを「幸せではない」と感じる傾向にあるそうです。更に、アメリカの調査で、現代人は1日平均で76回もスマホを手に取り2600回以上も画面をタッチしており、スマホをチェックするたびに目の前のことに対する集中力が途切れることから、学習効果や仕事の能率を低下させる大きな要因となっていると指摘しています。違う対象(=スマホ)に注意を向けるのは一瞬でも、元の対象に集中するには何分もかかることが原因とのことです。

また、スマホを見ていなくても身近なところにスマホがあるだけで、集中力が低下し睡眠にも悪影響を与える事もわかっているそうです。これは、人間には絶えず新しい情報を得たいという本能があり、新しい情報が得られそうになると、脳内でドーパミンが分泌され、新しいことに対して集中を促し、そこで新たな情報を知ることで脳が満足する仕組みが大きく影響しているということです。つまり、スマホが身近にあるだけで、新しいニュースやメール、SNSの記事に対する評価が無意識のうちに気になることで、目の前のことに注意が向かなくなるというものです。いわば、現代人は脳をスマホにハッキングされていると指摘しています。

これまでにも、スマホのブルーライトが“肝”と関係する目に悪影響を及ぼすことや、カナダの研究で、1日に2時間以上スマホやタブレットの画面を見ている幼児はADHD(注意欠如多動症候群)になる確率が7.7倍にもなることなども知られていましたが、「スマホ脳」を読むと、幼少期にスマホに触れていなくても、現代社会で大人のADHDが増加している理由の一つにスマホの普及があることがわかります。因みに、ADHDは漢方的には“肝鬱化風”と捉えます。

 

以上見てきたように、今後は、春でなくとも“肝鬱”症状をうったえる人が増えてくると思われます。“肝鬱”では、昼間に様々な症状があらわれますが、ポイントとしては睡眠にまで影響しているかどうかです。普段より寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めるような症状があると、成長ホルモンの分泌も少なくなることなどで、簡単にいえばストレス抵抗力が低下して昼間の“肝鬱”症状が更に悪化します。睡眠に問題があるときは、不安が主で動悸なども伴うことが多いタイプには麝香製剤で、焦りの感情が強く目の疲れなども強い場合は羚羊角製剤で眠りの質を確保することで昼間の症状も改善することが多いです。

 

(参考文献:「スマホ脳」アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)

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