“食欲の秋”に食べ方について考える

現代における“血虚”の原因

漢方相談の中でも貧血に限らず不眠や生理不順、皮膚の乾燥など背景に“血”が不足している病態(血虚)は数多くあります。こういった時に教科書的には当帰などが配合された製剤(補血剤)を用いるのが常識となっていますが、それで問題が解決するためには教科書には書かれていない大前提があります。それは食べ物を“正しく”食べているということです。食べ方に問題があれば当帰製剤などを服用するよりも食べ方を改善する方が“血”は増えます。

漢方の考え方では“血”は飲食物が“胃の腑”に入ったあとに五臓の“脾”のはたらきによって生み出されることになっていますが、加工食品など飲食物そのものの問題のほかにも若年層を中心に食べ方に大きな問題のある人が多く見うけられます。その最たるものが“流し込み食べ”と呼ばれるもので、よく噛まずにお茶やジュースで流し込むように食べるというものです。

漢方では飲食の不摂生による“脾胃”の機能低下により血虚が生じるということになりますが、そもそもよく噛まないと食品の断面積が大きくならず胃酸やペプシンなどの消化酵が作用しにくくなるほか、食事中に水分を多く摂ることでもこれらの消化液が薄まってしまいます。科学的にも、赤血球の生成に必要な食品中の鉄分やビタミンB12などは胃酸などのはたらきで消化され吸収されますが、胃酸が薄まるだけでこれらの成分の吸収が阻害されてしまいます(胃摘出後にみられる鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血と同じ機序)。更に悪いことに、冷たい飲み物で流し込むと消化管内の温度が低下して消化や栄養素の代謝に関わる酵素の活性までもが低下してしまい、食品中に含まれる栄養素の消化と吸収に支障をきたします。

あと、働き盛りの人に多く見うけられるのが、夜遅くに夕食をとるというパターンです。食べ物は胃の中で十分に消化された後に小腸に送られて栄養素が吸収されることになっていますが、食べ物が胃の中で十分に消化されるためには食事内容にもよりますが4時間程度はかかるとされています。夜の9時や10時に食べ終えて12時に寝るとしたら、まだ胃の中で食べ物が消化されている状態で、このことが逆流性食道炎までいかなくても朝起きたときの胸やけの原因になるばかりか胃腸機能が乱れる大きな要因となります。

現代人は食品中に含まれるカロリーや栄養成分を気にはしているものの、食べ物が胃の中に入りさえすれば自動的に中に含まれる栄養素がすべて吸収されると思いがちですが、そんな保障はどこにもありません。それどころか、間違った食べ方を続けることで胃腸機能そのものがダメージを受けると全身的に様々な悪影響が出ます(“脾は後天之本”)。

“腎精”の不足にも

食べ方の問題は“血”の不足だけでなく“精(後天之精)”の不足にもつながります。“脾胃”のはたらきで食べ物の中で最も栄養の濃い部分を“精(後天之精)”としてとりいれるわけですが、中年期以降は食べ方に問題があると“精”の不足(腎精不足)が生じやすくなります。“精”の不足は不妊症や骨密度の低下、脳の老化などにもつながりますが、こういったケースでは“精”を補う鹿茸や亀板などが用いられることになっているものの、やはり、まずは胃腸機能が正常に働いているか、次に食事の内容をチェックすることが重要となってきます。胃腸機能や食事に問題があれば鹿茸などを服用しても効果は限られますが、同時に食事面の養生をするほか、胃腸機能を回復させるような漢方薬を服用することで“精”を補う鹿茸などの効果がより早くみられるはずです。

“血”や“精”の不足という問題は昔からありますが、昔は飢饉や過労などの影響が大きかったと思われます。ところが、今の日本の現状を考えると食事の仕方に問題があることで栄養素の吸収に支障をきたしたり、胃腸機能そのものが乱れたりしていることが主な要因となっており、まずその部分を見直した上で、“血”や“精”を増やすとされる漢方薬を服用することが大事であると思います。

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