急増するADHD(2)

農薬とADHD

先進国を中心に急増しているADHDに関して、以前は遺伝的な問題があるとの意見もありましたが、数年前からは環境化学物質、特に農薬による脳への悪影響が関与しているとの研究論文が増えており、2012年には米国小児科学会から農薬暴露は子どもに発達障害や脳腫瘍などの健康障害を起こすとの警告が発せられました。農薬などの化学物質がヒトの脳の発達に悪影響を与えるメカニズムについては明らかになっていませんが、胎児期や小児期において農薬などの化学物質にさらされることで、脳の発達に重要な神経情報伝達系の撹乱などを介して、特定の神経回路が形成異常を起こすことがADHDなどの発達障害につながっているとする説が有力視されています。2016年には日本国内の子どもの尿中にネオニコチノイド系などの農薬が高濃度に検出されたとする報告もあるほか、東京都医学総合研究所のラットを用いた動物実験ではネオニコチノイドが哺乳類の脳の発達に悪影響を及ぼすことが示唆されています。

スマホとADHD

ところで、今年の5月にカナダのアルバータ大学からADHDの患者数が急増している背景について別の角度からの研究成果が発表されました。同大学の研究チームによると、カナダ在住の3歳から5歳の幼児3500人を調査したところ、1日に2時間以上スマホやタブレットの画面を見ている幼児は全体の7分の1に達し、ADHDになる確率が7.7倍にもなるほか、同じく30分以下しか見ていない幼児に比べて問題行動を起こす確率が5倍に達するというものです。そのほかにもスマホやタブレットの画面を長時間見ることは、睡眠不足など他のいかなる要因よりも悪影響を及ぼすことがわかったそうです。

パソコンが普及しはじめた頃にも、パソコン画面を長時間見ることによって眼精疲労や頸肩腕症候群のほか、イライラや抑うつ症状といった神経症状を呈するVDT(Visual Display Terminal)症候群というものが問題視されていましたが、肉体的にも精神的にも未熟な幼児が長時間にわたってスマホやタブレットの画面を見ることは大人以上にダメージを受ける可能性が高いといえます。また、ADHDといった問題以外にも将来にわたって液晶のブルーライトが網膜に与えるダメージも懸念されるところです。

さらに、ADHDとまではいかなくても、スマホやタブレットの長時間使用による心身の不調が世界的に蔓延していることを背景に、今年の5月に世界保健機構(WHO)は国際疾病分類(ICD-11)の現代病のリストに新たに「ゲーム障害」という項目を追加しました。日本の医療機関でもスマホ関連障害と呼ばれるような症状~ドライアイや目の奥の痛み、不眠やイライラ、睡眠障害からストレートネック(スマホ首)や腱鞘炎、バネ指など~で受診する人が増えているそうですが、特に未成年者の受診が多くなってきているそうで、5歳未満のバネ指や小児の肩こりなど、以前では考えられなかったようなケースも増えてきているそうです。

農薬もスマホも“肝”に影響する

ネオニコチノイド系農薬の一つであるチアクロプリドを雄のラットに慢性投与した実験では肝臓の肥大や網膜の萎縮がみられたほか、雄、雌ともに発ガン性もみとめられています。一方で、長時間スマホやタブレットの画面を見続けることは目を通じて五臓の“肝”に悪影響をあたえることになります(“肝”は目に開竅する)。さらに、ブルーライトによる直接的な弊害以外にも、画面を凝視することは神経を消耗し、自律神経と関係の深い“肝”には負担になります。また“肝”は全身の筋肉がなめらかに収縮するようにコントロールしているところなので、“肝”がダメージを受けると自律神経が乱れるだけでなく筋肉が痙攣を起こしやすくもなります。

特に子どもの場合はもともと肝気が昂ぶりやすいこともあって、農薬による脳や肝臓へのダメージ、あるいは長時間のスマホやタブレットの使用による “肝”への過度の刺激がADHDにつながりやすいといえます。対策としては羚羊角製剤などの熄風薬が有効とはいえ、“肝”は十分な“血”を必要としていますので食養生と“脾胃”の機能の安定を心がけることと、スマホなどを長時間使用しないことが必要といえます。

 

関連記事

  1. 夢で逢いましょう

  2. COVID-19と血管内皮細胞

  3. 脳の老化について

  4. 夏は”心”の季節

  5. 血液さらさらと発がん

  6. かぜは何故“ひく”のか?