かぜは何故“ひく”のか?

 かぜが流行る季節となってきました。ところで日頃なにげなく使っている「かぜをひく」という表現ですが、かぜ以外の疾患で「神経痛をひく」とか「糖尿病をひく」とは言わない訳で、何故、かぜに関してだけ“ひく”と表現するのでしょうか?

 その理由は漢字で書いてみるとわかりやすいのですが、“かぜをひく”を漢字で書けば“風邪を引く”となります。この風邪(ふうじゃ)とは、六淫と呼ばれる人体に作用して疾病を発生させる環境因子のひとつで、急に発症し、主に上半身の体表部をおかし、症状の変化が早いといった特徴を持っています。また、短期間で症状も消失することが多いとされており、かぜ以外にも花粉症やある種のじんましんなども風邪(ふうじゃ)により発症する疾患と考えられています。かぜでいえば、ウイルスやマイコプラズマ、細菌などによって発症するとされており、これらも風邪(ふうじゃ)の一つといえます。また、こういったウイルスなどは日常的に生活空間に存在しており、免疫力が十分に備わっている状態ではかぜを引くことはないのですが、からだの抵抗力が低下したときに、それらの邪(風邪)を自らのからだに“引きつける”ことによって発症することを“風邪を引く”と表現するわけです。

 現代医学的な発想では、かぜの原因となるウイルスや細菌を重視するのに対して、漢方の考え方では、それ(風邪)を自らのからだに引っ張ってきた本人のからだの状態にこそ原因があると考えるわけで、“かぜを引く”という言い方の中には、ウイルスや細菌そのものよりも、風邪を引っ張ってきたあなたが悪いというニュアンスが込められています。

 ついでに、冬にかぜが流行るのはなぜかという事に関して、実習にきた薬学生にクイズ形式で①温度が下がるから②湿度が下がるから③気圧が下がるからの3つの中から選んでもらうと、9割近くが湿度が下がる、即ち空気が乾燥するからと答えます。確かに空気が乾燥している方が飛沫感染を起こしやすいのは事実ですか、湿度よりも温度が下がることの方がかぜを引く要因としては大きいと思います。これは、外邪から皮膚や粘膜を守ってくれている衛気(えき)と呼ばれる目には見えないバリアのようなものがあるとされていますが、気は陰陽では陽であり、寒くなることは陽気を損ないやすくなり、人体の防御力の低下に直結するからです。特に暖房が行き届いた現代では、真冬でも冷たいものを飲んだりしておなかを直接的に冷やすことに抵抗感のない人が増えており、風邪(ふうじゃ)をからだに引きつけやすくなっています。

 一例を挙げると、かぜを引きやすいという相談を受けて聞いてみると、冷蔵庫から出したてのミネラルウォーターなどを真冬でも飲んでいるという人がいます。空気が乾燥していることが、かぜが流行る要因だと思っている人にとっては、平気なのかもしれませんが、こういったケースでは、コップ一杯の冷たい水を頭からかぶったらかぜを引くと思いませんか?と尋ねるとだいたい納得されます。頭からかぶった水は拭き取ることも出来ますが、飲んでしまえば逃げ場もないわけで、頭から水をかぶる以上のダメージとなります。漢方的に言えば、気の主な発生源であり、後天の本とも称される脾=おなかを冷やすことは、かぜだけでなく健康上大きな問題とされていますが、西洋医学的にみてもおなかを冷やすことは腸内細菌バランスを悪化させ、免疫力の低下につながります。

 腸内細菌バランスという観点からは、現代人は味噌汁やぬか漬けなどの発酵食品を食べない上に保存料などの食品添加物の影響を受けて腸内細菌バランスが悪化しており、そこへ冷たい飲み物で追い打ちをかけているわけで、このことがかぜに限らず花粉症の蔓延から、マイコプラズマやノロウイルスを日本人のからだに“引きつけている”大きな要因だと思います。

 

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