かぜの季節に牛黄について思うこと

インフルエンザに伴う異常行動

 昨年の11月に厚生労働省は、各都道府県に対して、インフルエンザにかかった未成年者がいる場合、家の窓や玄関にかぎをかける、一戸建ての場合は1階に寝かせることなどを促す通知を出すことを決めたと報道されました。インフルエンザに関しては抗ウイルス剤の副作用としての異常行動が取り沙汰されていますが、WHO(世界保健機関)も昨年の6月に公表した「必須医薬品」リストで、インフルエンザに用いられる抗ウイルス剤を「保健システムに最低限必要な薬」から「補足的な薬」に格下げしました。理由は、インフルエンザに罹患した大人に対して症状のある期間を約1日短縮するだけで、入院や合併症を減らす効果はないとの研究が発表されるなど、効果は限定的との報告が出たため格下げになったとのことです。また、同時にWHOの専門家委員会は抗ウイルス剤の使用に関して、入院患者が重症となっている場合に限るべきだと指摘した上で、効果を示す新たな情報が出てこなければ、リストから外す可能性も示唆したとのことです。未成年者を中心としたインフルエンザに伴う異常行動に関しては、抗ウイルス剤を服用していない場合でも発生していることから、抗ウイルス剤との因果関係は明かではありませんが、未成年者が抗ウイルス剤を服用した場合、100人に一人程度の割合で異常行動がみられるとの指摘もあり、今回の通知につながったものと思われます。

 このインフルエンザで高熱を発した場合にみられる異常行動に関しては、インフルエンザ脳症とよばれ、幼児や免疫系が未熟な未成年者で多くみられるもので、インフルエンザウイルスによって未熟な免疫系がダメージを受けることにより、過剰な免疫反応がおきて炎症性サイトカインが脳内で過剰に産生されることで引き起こされるとされています。最悪の場合は、全身の細胞が障害を受け、血管炎や多臓器不全へとつながりかねないもので、また、鼻の粘膜に近く、感覚や感情と関連する側頭葉が障害を受けると異常行動がみられるとされています。因みに、ウイルスが脳内に浸潤した場合はインフルエンザ脳炎とよばれますが、脳症の方がより重篤とされています。尚、インフルエンザ脳症に対しては一部の解熱剤の使用はかえって症状を悪化させるリスクもあり、特に小児に対しては速効性のある有効な手だてはありません。

 漢方の世界では、昔からこのようなときに“主として驚癇の病や寒熱病、発熱が盛んなとき、狂ったようになったり、痙攣の病を治す(神農本草経)”とされる牛黄が用いられてきました。また、牛黄はインフルエンザ脳症も含めて小児の死亡原因の多くを占めていた感染症の高熱に著効を示したことから“小児の百病を治す(名医別録)”ともいわれてきました。因みに、インフルエンザ脳症は免疫系の未熟さが一因とされていますが、小さい頃から抗生物質を多用することで腸内細菌叢が影響を受けて免疫系が正常に発達しないケースが増えてきており、今後は未成年者でなくても高熱時に異常行動を示す人が増えてくるのではないかと危惧されます。

風邪による咳に効く薬はない(米国胸部医学会)

 やはり昨年の11月に米国胸部医学会の専門家委員会が風邪による咳に有効とされる市販薬や民間療法を詳しく調べたところ、効果を裏付ける質の高いエビデンスがある治療法は一つもなかったそうで、「風邪による咳を抑えるために市販の咳止めや風邪薬を飲むことは推奨されない」との見解を示したと報じられました。具体的には抗ヒスタミン薬や鎮痛薬、鼻粘膜の充血を緩和する成分が含まれる風邪薬やイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の試験データの分析からも、これらが風邪による咳に有効であるとするエビデンスは得られなかったそうです。

 たしかに日本でもしつこい咳に対しては医療用であろうがOTCであろうがなかなか効果がみられないことが多く、咳がいつまでも止まらないといった漢方相談をよく受けます。西洋薬で難治性の咳にはタイプに応じて麦門冬湯や小青竜湯、あるいは半夏厚朴湯などの処方で対応しますが、肺に熱がこもっているような場合には牛黄が奏効することがあります。もともと牛黄はのどの炎症にも有効ですし、昔から清熱解毒作用の一つとして肺癰(肺化膿症)にも応用されています。

 

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