漢方から見た「食」と子どもの健康

 以前に地元の大阪市中央区学校保健協議会の保健大会で「漢方から見た食と子どもの健康」と題して講演をさせていただきました。新聞などでも報じられていますが、昔に比べて今の子ども達は、体格は向上したけれども体力が低下しているとか、アレルギー疾患の罹患率が増加の一途だとか、背骨が曲がっていたり、ちょっとしたことですぐに骨にヒビが入ったり骨折するなどといった傾向が年々顕著になってきているとか、子ども達の間でこうした「異変」が確実に進行している現状について、学校現場をあずかる先生方も相当危惧されているようでした。

 こうした子ども達の現状に対して、学校関係者をはじめ行政の方でも背景に「食」の問題があるとして、盛んに「食育」ということを言い出してはいますが、「食」に関してはタンパク質や炭水化物、食物繊維といったことや何が何カロリーでということ、狂牛病や環境汚染、ホルモン剤や抗生物質、農薬、食品添加物、はては昨年大問題になった産地や原料に関する様々な偽装など、あまりにも考えないといけないことが多すぎて立ち往生してしまうというのが現状だとも思います。

 ところが漢方の目から見ると、現代人の食事に関してはもっと根元的なところで「間違っている」ことが多すぎると言わざるを得ません。「自然でない行いは、自然でない混乱をうむ」とは、かのシェークスピアの言葉だそうですが、人間は自然の中の一部であり自然の法則に則した生活こそが健康につながるという漢方の大原則にてらしても、子どもに限らず現代人の「食」に関してはあまりにも「自然ではない行い」が横行していると言わざるを得ません。

 では、「食」に関して何が最も「自然ではない行い」なのかというと、それは農薬や添加物といった問題ではなく、「冷たいものの摂りすぎ」「伝統的な食事を摂らなくなった」の二つが挙げられます。特に「冷たいものの摂りすぎ」に関しては、おそらく世界中で日常的にかくも冷たいものを飲み食いしている国民は他に例がないのではないかという程ですし、後者についても戦後の日本人ほど急速に食事の内容が変化したというのは人類史上かつて例がない程であるといわれています。

 講演では、何を食べるかとか1日に何種類の食材を食べるべきといった話しよりも「体温よりも低い温度のものはできるだけ口にしない」ことと、「伝統的に日本で食べられてきた物を中心に食べる」ことを心がけること、それと食事の際にはよくかんで食べる習慣をつけることが、子どもに限らず日本人の健康にとっていかに重要であるということを、誰でも分かる簡単な科学的根拠を交えてお話しさせて頂きましたが、お聞き頂いた方々には概ねご理解頂いたようです。

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