“病は気から”の分子メカニズム

脳内の微小炎症

 今年の8月に北海道大学遺伝子病制御研究所所長の村上正晃教授(分子神経免疫学教室)らの研究チームがマウスを用いた実験で、ストレスが胃腸の炎症や出血あるいは突然死をもたらすメカニズムについて解明し、英国の科学誌イーライフのオンライン版で発表しました。この研究論文は「特定血管の局所的な脳内微小炎症は,新しい神経回路活性化を誘導し,臓器恒常性を破綻させる」というもので、脳内の特定血管に生じた微小炎症により,炎症誘導因子として知られるアデノシン三リン酸(ATP)が分泌され,分泌されたATP がさらに神経伝達物質として働き、通常は存在しない新規の神経回路を活性化させることで,ストレス反応を大きく増強するとともに、胃・十二指腸・心臓の機能低下を誘導するメカニズムを発見したとのことです。

 実験では、睡眠不足などの慢性的なストレス状態にあるマウスに、脳内の特定血管に炎症を引き起こし多発性硬化症の原因ともなるCD4+T細胞を移入したところ突然死を引きおこしたことから、メカニズムの解明がすすんだそうです。この論文によれば、単にストレス状態にあるだけではなく何らかの原因により脳内の特定血管部位に微小な炎症が生じることが突然死につながるとのことで、同じストレスを受けても脳内の微小な炎症の有無によって病気になるかどうかが分かれるとのことです。更に、今回の研究成果をふまえてアルツハイマー病やパーキンソン病における脳内の微小炎症が新規の神経回路の活性化を介して脳を含む臓器機能の不調を誘導する可能性が示されたとのことです。

 脳内の炎症についてはこれまでにも、理化学研究所と大阪市立大学などの共同研究チームによって慢性疲労症候群の患者では健常者と比べて、神経炎症に関わる免疫担当細胞であるマイクログリアやアストロサイトの脳内での活性化により脳神経の炎症反応が広く見られ、このことが脳機能の低下の原因となっていることが報告されています。また、異常行動や意識障害を引きおこすインフルエンザ脳症も脳内における過剰な免疫反応による炎症性サイトカインの過剰産生によって引きおこされることがわかっています。いずれにせよ、免疫細胞の異常もしくは過剰な反応と脳内の炎症がこれらの病態と深く関わっていることになります。

漢方の立場では“気虚気滞”

 さて、アレルギーや多発性硬化症などの自己免疫疾患における免疫細胞の異常に関しては腸内細菌バランスが大きく関与していることが近年の研究で明らかになってきています。また、腸内細菌バランスが悪いということは漢方的に考えると五臓の“脾”の機能低下(“脾気虚”)につながり、このことは全身を巡る“気”のパワーの低下につながります(“気虚”)。また、ストレスに関しては“気が詰まる”という言い方があるように漢方的には“気滞”と表現されますが、“脾気虚(気虚)”の方は“気”が滞りやすくなり、ちょっとしたストレスでも“気滞”症状を呈しやすくなります(すなわちストレス抵抗力の低下)。また、ストレスは多かれ少なかれ五臓の“心”に影響しますが、今回の北海道大学の研究成果を漢方的に考えると、五臓の“心”において“気虚気滞”から化熱した状態で、更なるストレスにさらされることが突然死にまでつながっているような気がします。もしくは、脳内の微小な炎症とは中気下陥からの“気虚発熱”の考え方にも通じるかもしれませんが、いずれにせよ胃腸機能の低下(腸内細菌バランスの悪化)に精神的なストレスが重なることが突然死のリスクを高めるようです。

 よって、日頃から食生活の改善などを通じて腸内細菌バランスや胃腸の機能を正常な状態に保つことが正常な免疫機能の維持だけでなく、ストレス抵抗力を高めて脳内の炎症の発生を防ぐことにつながります。また、すでに脳内に微小な炎症状態が存在している可能性があれば牛黄の清熱作用が最も有効だと思います。

 

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