“脾虚”が蔓延する現代日本

脾虚は万病のもと

  日本では、この四半世紀ほどの間に脾虚、すなわち胃腸機能低下になる人の割合が増大してきており、各種の疫学的なデータや統計を見ても、その傾向は悪化の一途をたどっているように見受けられます。

  胃腸の機能面の低下は、患者さん本人に胃痛などの強い自覚症状が存在しないことが殆どである上に西洋医学的な検査で胃腸に器質的な異常が認められないことも多く、店頭に於いても見逃されがちですが、相談薬局を訪れる殆どの方に脾虚(胃腸機能低下)が存在すると言っても過言ではなく、その傾向は年々顕著になってきているように感じます。因みに、脾虚の確認は「健康的な空腹感がない」「食後の膨満感や、食べたあと眠くなる」「軟便になることがある」の三つのうち二つ当てはまれば脾虚(胃腸機能低下)であり、また、季節の変わり目に体調を崩しやすいとか、梅雨時や雨の日に体調が悪くなるのも脾虚の方に多く見られます。

  胃腸機能が慢性的に低下した状態では、食べ物の栄養をからだに取り入れることができなくなって、食べ物から得られる“気”“血”“津液”“精(後天之精)”の不足につながりますし、胃腸は全身の水分代謝にも関係しており、胃腸機能の低下はむくみや軟便、おりもの、頭重などのほか唇やお肌の乾燥にも直結します。具体的な疾患名を挙げれば、気血の不足は貧血や慢性疲労、ストレス抵抗力の低下からの鬱病などのほか、花粉症やアトピー性皮膚炎、喘息などのアレルギー疾患、機能性不妊をはじめとする婦人疾患から一見関係なさそうですが神経痛(痺症)などが挙げられます。これらの疾患以外にも背景に脾虚の存在がある場合には、主訴に対応した処方以外に主訴の背景となっている脾虚の改善が重要になりますが、その為には漢方処方やサプリメント以外に最低限の養生法をお伝えすることが欠かせません。

 

バランスの良い食事?

 本来、食養生というか養生に関しては医学、薬学の問題と言うよりも常識の範疇であった訳ですが、今や“常識”に頼ることはできない状況です。平成二十二年度の食育白書によれば、二十~三十代の男性では「健康を維持するための一食の量とバランスがわかるか?」という質問に対して、なんと四割近くが「わからない」と回答したと記されています(全世代の男女でも四分の一以上が「わからない」と回答)。ある年代以上の方からは想像もできないと思いますが、何をもってバランスが良いかがわからない人達が若い人を中心に増えてきており、「バランスの良い食事を心がけて下さい」と言ったところで意味をなさなくなってきています。

 現代の日本人の食事に問題があるという認識のもとに数年前には食育基本法なる法律まで制定されましたが、何を食べれば良いとか何種類の食材を摂るべきなどといった現代栄養学的な観点からは問題を解決することは難しいと思います。

 漢方的な養生の観点からは、まず胃腸の機能面に悪影響を与える食べ物や食べ方を避けることが重要で、更に薬食同源というように食べ物にも生薬と同じように効能があるという認識が必要となります。もちろん、季節によっても、その土地の環境によっても適した食べ物は異なってくるわけですが、基本的には“その土地でとれるものを旬の時期に食べる”ことにつきます。言葉をかえれば、それぞれの地域に於ける伝統的な食事が基本ということですが、伝統的な食事とは、その土地でとれるものの中から、からだに良いかどうかを基準に長年にわたり取捨選択されてきた結果であるからです。日本の場合は、湿度が高く胃腸機能が低下しやすいために、具体的な食材以外でも糠漬けや納豆、味噌といった発酵食品を摂ることも欠かせません。

  現代の日本では、あまりにも伝統的な食事からかけ離れているがために、一日に一食だけでも旬の野菜を入れたみそ汁(もちろん天然のだし)とごはんを中心にした食事を一ヶ月継続しただけで、小学生の低体温や便秘などの体調が改善しただけでなく、学校の成績まで向上したという報告もあります。また、食べ方として一口三十回噛むことと、食事をしながら冷たい飲み物を摂らないことをこころがけることも大事です。一昔前なら常識だったことですが、たったこれだけで体調が良くなるというのは、それだけ若い人達を中心に間違った食生活が原因で脾虚が蔓延しているといえます。

 

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