つい先日、6月下旬の日本がん予防学会で、サフランに含まれる黄色色素のひとつであるクロシンに動物実験で大腸の炎症を抑え、大腸がんの発生を抑制する効果のあることが、東海中央病院の研究チームらによって発表されたとの報道がありました。
サフランは地中海沿岸地域が原産で、ヨーロッパでは紀元前より染料や香料として利用され、中世末期にはリラクゼーション効果の高い薬草として人気を博していたそうです。現在でも、パエリアやブイヤベース、サフランライスなどの料理に欠かせないほか、アロマオイルなどにも応用されています。
中国に於いては、見た目が紅花に似ていることから、番紅花、藏紅花などとよばれ、主に生薬として用いられてきました。本草綱目ではサフランの主治として、“心憂鬱積”、“気悶不散”、“活血”の三つを挙げ、“久しく服用していると心が喜び、惊悸(びっくりしてどきどきすること)を治す”と記されています。現代の中医大辞典中薬分冊によると、サフランの帰経は気血の流れに関わる心、肝で、解鬱作用以外の効能として活血消腫、痛経(生理痛)、産後お血腹痛といった婦人科系の血の道症などが挙げられており、その効力は紅花よりも強力であるとされています。
ところで、これまでにも日本に於ける研究で、サフランに含まれるクロシンなどには強力な抗酸化作用のあることが知られています。更に細胞内に於いて抗酸化作用を発揮するグルタチオンの産生を増加させることも確認されており、特に酸化ストレスに弱い脳細胞を保護することにより記憶学習の改善や認知症の予防などへの応用を目指した研究が進んでいます。
今回のサフランの薬効についての発表は、脳ではなく大腸に対するものですが、近年の研究に於いて腸は脳と同じく膨大な神経が存在しており、脳や脊髄からの指令がなくても反射を起こせる内在性神経をもつ唯一の臓器であり、第二の脳=セカンドブレインとも称されています。また、過敏性腸症候群の臨床的な研究でも、脳の状態が下痢や便秘といった腸の状態に影響を与えるとともに、腸のコンディションが脳に対してストレートに影響することが知られています。これは、西洋医学で脳腸相関と呼ばれますが、がんの発生はもちろん、腸のコンディションはたとえ意識レベルまでの強さが無くても、脳の情動形成に影響を与えることがわかっています。
漢方の世界では、後天的に得られる知的な精神活動は“魂”が、本能的な反応と感覚(七情)の機能は“魄”が担っており、最終的に心神が魂魄を統括しているとされています。更に、本能的な感覚を支配する“魄”は大腸と表裏をなす五臓の肺に蔵され、肛門のことを魄門とも言います(因みに“魂”は肝に蔵されています)。
今回のサフランによる大腸の炎症を抑えガンの発生まで抑制する効果は、食品添加物などの化学物質に慢性的にさらされている現代人の腸の粘膜の状態を改善することを通じて、サフランの漢方的な薬効である精神安定作用にもつながっているとも考えられます。