食の堕落と日本人

Photo_17  醸造学、発酵学から食に関する文化論にも精通されている東京農業大学教授の小泉武夫さんの著書です。

 季節感のない野菜や添加物だらけの加工食品の氾濫などは「食の堕落」であり「日本食を食べない日本人は堕落する」とした本書は、単純な精神論などではなく、現代日本のかかえる様々な問題点の原点には食の問題があることをわかりやすく解説しています。

 大学で食文化論を講じている著者からみても、日本ほど急激に民族の食べものが急変したというのは諸外国にも例がないと指摘し、その原因として、経済成長を最優先とし、農業や水産業を軽視してきた戦後日本の政策上の誤りがあると指摘しています。

 更に、堕落した日本を救うためには
○農・水産業に魅力を感じさせる行政を行うこと
○国は農・水産業を「生命維持産業」と位置づけて、その基盤を強化すること
○教育を通して「社会に生きる個人」の意味、「食」の意味を教えること
○医学教育に「食事学」を
○とにかく食糧自給率を上げること
などを提言されています。

(著者:小泉武夫、小学館文庫、2004年10月初版)

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 冬でも夏野菜が食べられたり、人工的に作られた食材や加工食品、世界中の食材や料理があふれている現状は、確かに豊かかも知れませんが、失ったものも大きいということだと思います。

 また、食品分析が「進み」すぎた結果、食品をビタミンや繊維、タンパク質といった栄養素の集まりのように捉える風潮は、ますます「食品」を物質的なものにおとしめているような気もします。同じ炭素からできているといっても石炭とダイアモンドは違うものの筈ですが、食品に関しては石炭とダイアモンドは同じ物だという議論がまかり通っているのが科学の進んだ日本の現状だと思います。

 食育だ、バランスの良い食事をなどといくら叫んだところで、「食」とは何かという根本的なところが曖昧なままでは話が前に進みません。今回ご紹介した本も、非科学的な意見だと一笑に付す方もおられるかもしれませんが、漢方的な立場からいえば、小泉先生ならではの視点から問題の本質をあぶり出していると感じます。

 

 

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