いっぱいごめん いっぱいありがと~認知症の母とともに

Photo  一昨日は広島でこの本(詩画集)の作者で、陶芸家でもある岡上多寿子さんの講演を聴く機会がありました。

 認知症になったお母様とともに暮らした日々について、介護を手伝ってくれていた息子さんのユーモアや、山から下りてきた猿の家族が軒(のき)につるしていた干し柿を持っていく時に頭を下げていったエピソードなども交えながらのお話しでした。

 自分の母親に認知症の症状が出だして、最初はとまどい、やがて自分自身がどんどん追い込まれ、ヒステリックにもなって限界だと思った時に、認知症のお母さんと一緒に東京花笠音頭を歌い踊ることでお母様が笑顔になって、その笑顔に支えられつつ最後までの日々を送ったということですが、講演は1時間半でも、陶芸の仕事をしながら認知症の介護をされてきた時間が10年と聞けば、並大抵のご苦労ではなかったと思います。

 岡上さんの心情としては、悔いが残る部分もおありのようでしたが、お話を聞いていて自分がそこまでできるのかとも思いますし、お母様は認知症になられたにせよ、幸せな生涯を過ごされたのではないかと感じました。

 本書は、「先の見えない不安や社会と断絶したような孤独感、叱責後の無気力と自責の念、空しさと情けなさ、複雑な感情が渦巻いたとしても逃避できない現実。去来する心情を詩画にしてみました。 大切な母だから別れの日まで一緒にいた、でも途中大切と思わないこともあったことなどを・・・・・。(「はじめに」より)」というものですが、認知症に限らず、日々、お身内の介護をされている方をはじめ多くの方に手にとってもらいたいと思います。

                             (木耳社発行、定価1200円+税)

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 岡上さんのお話では、当初、昼夜を問わず徘徊するので気が気でなかったそうですが、息子さんが介護を手伝うようになって、お母様を散歩に連れ出したところピタリと徘徊が無くなったというお話しをされていました。

 漢方では徘徊や暴言など認知症の周辺症状に対して抑肝散が有効であるとされマスコミなどでも取りあげられていますが、認知症で徘徊などを伴うケースは漢方的には血虚肝旺タイプといって、血の気の少ない状態から、血の塊である五臓六腑の“肝”の気が乱れて発生するとされています。漢方薬を用いてもピタリとやむほどの即効性は期待できないことが多いのですが、認知症のお母様から見たらお孫さんが一緒に散歩に行くことでピタリと症状がなくなったというのは驚きでした。

 漢方では人間の心(こころ)について、“肝”にある“魂”と“肺”にあるとされる“魄(はく)=本能的なもの”のバランスをとることで精神が安定するとされています。認知症は、“魂”と“魄”で言えば“魂”がだんだんと“薄れて”いって、本能的な感情(“魄”)が表に出てきやすくなる状態ではないかと考えられます。よって、あくまで個人的な感想ですが、岡上さんのお母様のケースでは、お孫さんの心の優しさが本能的な部分(“魄”)に影響して徘徊がとまったように感じました。

 偶然ですが、岡上さんの講演の1週間前に旭山動物園の小菅名誉園長さんの「動物も人間もひとつの命ということでは平等である。ただ、命の“いれもの”が違うだけである」というお話を聞いた後だけに、余計にそう感じました。

 

 

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