日本の「薬漬け」を斬る

Photo  かなりセンセーショナルな標題ですが、日本の医療現場~特に精神科領域に於ける「薬漬け」について、かなり突っ込んだ内容のものとなっています。

 著者である内海医師(牛久東洋医学クリニック院長、内科医)の精神薬の薬害問題に取り組むボランティア活動を通じた経験を元に、具体的で生々しい日本の精神医療を中心とした「薬漬け」の実態が書かれています。また、内海医師がボランティア活動を通じて意気投合したという東京家政大学教授でもある中村医師(医学博士)との共著となっています。

(内海 聡、中村 信也 著、日新報道、2011年2月発行)

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 日本人は薬好きと言われますが、一人の患者に処方される医薬品の多さは諸外国に比べても群を抜いています。更に、一旦、処方され出すと何時までも同じ薬が漫然と処方され続ける傾向にあります。問題は、医師が決して悪意を持っているわけではなく、日本の医療現場で様々な要因が絡み合ってそういう“空気”ができあがっていることです。

 本書でも医者自身が薬を減らすことを恐れる傾向にあること、ひたすら不安をあおることで視聴率を稼ごうとするマスコミの姿勢の問題、患者側にも薬を飲みさえすれば病気が治るという思いこみ、製薬メーカーの薬をより多く売ろうとする姿勢など、様々な角度から問題点が指摘されています。

 個人的には、日本社会自体がリスクというものを欧米のようにtakeするという考え方が無く、リスクそのものが「存在しないことにする」社会だというのが根本的にあると思います。また、製薬メーカーも現在では巨大化しており、倫理観よりも資本の論理を優先し過ぎる傾向にあるのも気になるところです。簡単にいうと、検査データの正常とされる範囲が変更されたり、学術データに偏りを持たせたりといったことなどです。まあ、そういった不正まがいの事象はそんなに多くはないとは思いますが、現状で製薬メーカーの利益を極大化させる方法は、病気を治す薬を開発する事ではなく、何時までも飲み続ける必要のある対症療法薬の開発であることは確かです。

 また、アメリカの医者は同時に3種類以上の薬を出さないのは副作用が発生したときに患者からの訴訟が怖いからといった話を聞いたことがありますが、日本では、そういったことが多剤投薬の抑制要因になるのはまだ先のような気がします。

 いずれにせよ、現代に於いては「薬が効く」ことと「病気が治る」事は必ずしも一致しない事と、薬には副作用に限らず依存性や習慣性、相互作用、リバウンドなどのリスクがつきものであることが社会全体に認識される必要があり、更に日本特有の問題として、誰がそのリスクをどれだけの割合で負うのかを明確化する必要があると思います。

   

  

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