鬱とは

 常用漢字が29年ぶりに改訂され、“匁”など5字が削除され、新たに196字が追加されることが決まったそうです。追加される文字の中でも“鬱”という字の追加については、画数が多いもののパソコン入力をふまえてとか、鬱病患者の増大などが背景にあるといった報道がなされています。

 さて、この“鬱”という字ですが、漢方の世界では「鬱なる者は滞りて不通の意なり」とされ、簡単に言うと“鬱”とは流れが滞ることを指します。漢方では“鬱”には“気鬱”“熱鬱”“血鬱”“痰鬱”“湿欝”“食鬱”の6種類があるとされていますが、その始まりは“気”の流れの滞り(=“気鬱”)であり、約2000年前の黄帝内経にも「百病は気より生じる」と記されています(この言葉は「病は気から」のもとになった言葉ですが、日本ではいつのまにか精神論的なニュアンスになって、オリジナルの意味とはずれを生じているように思います)。

 では、なにゆえ“気”の流れが滞ることが百病につながるのかと言えば、身体の中を流れる血や水分、栄養分などは総て“気”のエネルギーによって流れているほか、飲食物も口から胃、十二指腸、小腸へと送られるのも“気”の流れによるものですし、神経痛などの痛みは“気”の流れが遮断されることによって生じるとされており、“気”がスムーズに流れないことは健康にとって大きな障害となりえるからです(漢方の立場から言えば、精神的な鬱も、神経痛も“気”がスムーズに流れていない点では同じことです)。実際、多くの疾患(機能性胃腸障害、便通の異常、慢性副鼻腔炎、神経痛、筋肉の凝り、生理痛や頭痛などなど)に用いられる漢方処方にも“気”の流れを良くする生薬などが配合されています。

 また、“気”の流れを阻害する要素としては、第一に精神的なストレスが挙げられますが、そのほかにも環境面では湿気や冷えも“気”の流れを邪魔します。即ち「雨が降ると鬱陶しい」訳です。その他にも、血の流れが滞った“淤血(おけつ)”や水垢のような“痰湿(たんしつ)”とよばれる病理産物がからだにたまると、これらも“気”の流れを邪魔します。

 更に、“気”の流れが停滞して“気鬱”になるわけですが、この時、十分な量の“気”が流れていて何らかの要因で流れが滞ったのか、もともと流れるべき“気”のエネルギーが少ないためにちょっとしたことで滞りを生じたのかで、治療方法が異なってきます。

 現代の日本人では圧倒的に後者のパターンが多いように思いますが、これは“気”の主な発生源が胃腸であり、食に関する不養生が蔓延し、そのことが胃腸機能を低下させているのが最大の原因で、安易に“気”の流れが滞りやすいことが更に胃腸の機能も低下させ・・・という悪循環に陥っている方を多く見かけます。

 

 

  

 

 

 

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