夏は”心”の季節

動悸について

夏は五行説では“心”の季節で、熱中症に限らず動悸や息切れといった症状があらわれやすくなります。これは暑さから“心”の液である汗をかくことが多くなり“心陰”を消耗しやすくなることや、冷たい飲み物を摂ることで胃腸の水分代謝が乱れて体内に余分な水(“水飲”)が発生し、これが“心陽”に影響することなどによるものです。また、もともと動悸がしやすい体質としては、エネルギー不足の“気虚”や貧血気味(“血虚”)の方、“瘀血”の方などが挙げられます。いずれにせよ、腎陰が減少して、気血も不足しがちな高齢者ほど要注意です。また、年齢を問わずストレスは五臓の“心”に影響し動悸の原因となります。

ストレス性の動悸に関しては、人間にとって動悸そのものが大きなストレスとなることから、最初は別のことでストレスを感じて動悸がしても、やがて動悸そのものに大きな不安を感じるようになって、さらに動悸がしやすくなることもあります。西洋医学でも心臓神経症とよばれる病態が知られていますが、狭心症と違って動悸や息切れでも安静時に起こることが多く、また、ストレス性の場合は症状の持続時間が長くなるという特徴があります。

因みに、ストレス性の動悸に関しては、ストレスを感じたときに“脅威反応”か“チャレンジ反応”のどちらが起こるかで大きな差が出ることが知られています。“脅威反応”とは、文字通り自分の身に危害が及ぶ危険性を感じることで、血管も収縮して心臓血管疾患のリスクも増大しますが、ドキドキしていても心のどこかでワクワクしているようなとき(“チャレンジ反応”)は、心臓の鼓動が早くなって血流量も増えますが、血管は収縮しないことが知られています。スポーツ選手などが大会前にストレスを感じつつも前向きに臨んでいる時などにみられ、この“チャレンジ反応”が起きたときが、ドキドキしていたとしてもストレスが全くないときよりもパフォーマンスが更に高くなることが知られています。

蟾酥と麝香

動悸に関しては、その原因となる体質面の問題があれば、それを改善していくことが根本治療につながるとはいえ、大半の人は動悸がしたら“脅威反応”が起こることから、すぐに動悸を鎮めることも重要です。動悸に速効性のあるものとしては、蟾酥製剤や麝香製剤が代表的なものになります。蟾酥製剤も、麝香製剤も日本では動悸、息切れ、気つけの効能を有しているのは共通ですが、蟾酥は古来、“中暑=暑気あたり”による動悸や意識障害、吐き下しなどに用いられてきました。また、以前にも本稿で紹介しましたが、中国では六神丸は疫病対策に用いられてきたことから、現在でもかぜやインフルエンザなどで特にのどが痛くなるようなケースで免疫力を上げる目的でも繁用されています。日本では蟾酥=強心作用というイメージですが、感染症以外にも蟾酥の免疫増強作用は研究されており、昭和大学薬学部の研究によっても蟾酥の主成分のひとつであるブファリンにヒトの種々のがん細胞の増殖を特異的に抑制する効果が確かめられているほか、中国においても様々ながんに対して蟾酥は応用されており、マクロファージの活性化作用もあるとしています。

因みにマクロファージと心臓の関係でいえば、昨年、東京大学などの研究で心臓の組織マクロファージから分泌されたタンパク質(アンフィグレリン)が心筋細胞に作用することにより心臓における恒常性が維持され突然死が予防されるとする発表がありました。

麝香に関しては、緊張したり不安を感じたりしたときに動悸がするような不安神経症気味の方に対して、強心作用というより精神安定作用的に効果を発揮します。またこういった方は、中途覚醒などの睡眠障害があることが多く、就寝前に麝香製剤を服用することで睡眠の質を高めてストレス抵抗力を高めることが、起きているときの不安感や動悸を減らすことにつながります。更に、睡眠状態だけでなく、腸内細菌バランスが悪いなど胃腸に問題があることも多く、食生活なども重要です。

 

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