春のストレス対策

木(こ)の芽(め)時(どき)

 春は五臓では自律神経と関係する“肝”の季節であり、春になって木々が芽吹くことをあらわす“木(こ)の芽(め)時(どき)”といえば、ストレス性疾患が増える季節を暗示する表現としても使われます。因みに、厚生労働省の統計でも一年のうちで自殺者が最も多くなるのが4月となっています。

 漢方ではストレス性疾患に関しては、一般に“気が詰まる”という言い方があるように、全身を巡る“気”の巡りが停滞することで生じるとされています。また、“肝は疏泄を主る”とされ、“肝”は全身の気血の巡りをコントロールしており、自然界の活動が活発になる春に気血が不足している人は気の巡りがスムーズにいかなくなって、ストレス性疾患を発症しやすくなります。特に“肝は血を蔵す”とされ、“血”の不足(“血虚”)は“肝”の機能低下に直結します。また、“気”の主な発生源である“脾”が弱いと、“気”そのものが少なくなって(“気虚”)、“気”が巡りにくくなってしまいます。

特に“気虚”の方でむくみやすいなど水分代謝異常も伴う方では「不安と回避の悪循環タイプ」とよばれますが、不安に感じることを何でも避けるようになる上に、不安に感じることに直面するとパニック発作を起こしやすくなります。こういった方には、少しでも不安に感じたときに麝香製剤などで“気”を流すことで落ち着くことを実感してもらうだけでも不安が和らいでいきます。また、そこまで“気虚”の程度がひどくない方では不安よりも焦りの感情が強くなることがありますが、このような場合は羚羊角製剤などで焦りの感情を沈静化することで、気分が楽になることが多いです。もともと日本人は不安遺伝子(セロトニントランスポーター)の中で内向性性格遺伝子ともよばれるS型保有率が世界一という研究報告もあり、ストレスでイライラしたり、攻撃的になるよりも、不安や焦りの感情が強くなる傾向にあるようです。

因みに、睡眠に関して不安タイプでは寝つけるものの夜中に何度も目が覚めることが多く、焦りタイプでは寝つきにくくなります。睡眠に問題があるケースでは、睡眠前にそれぞれのタイプに応じて麝香製剤なり羚羊角製剤を服用することで睡眠状態を改善することも必要になってきます。最後に、ストレスに対して前向きにチャレンジしていくような方で疲労を感じている場合は牛黄製剤が合っていると思います。

 

ストレス抵抗力を高める

 ストレス性疾患の患者さんの話を聞いていると、身の回りの様々なストレスを挙げる方もいればストレスはないはずだという方もおられます。後者の場合は、人間関係などのストレスはなくても、自分が感じているさまざまな症状自体がストレスになっていることが多いです。いずれにせよ、背景にストレスの存在が考えられる場合は、ストレスそのものの影響というよりも本人のストレス抵抗力が低いことでダメージを受けやすくなっていることが多いので、前記の麝香製剤などで“気”の巡りを良くして症状をとりつつ、本人のストレス抵抗力を上げていく事を考えます。つまり、本人の“気”や“血”をパワーアップしていくことで、多少のストレスで“気”や“血”が滞らないようにすることをめざします。そのためには“気血生化の源”である“脾”の機能を充実させることが重要になってきます。これは、胃の腑に入った飲食物を元に、脾の働きによって“気”、“血”、“津液(水)”、“精(後天の精)”が体内に取りこまれる事から、気血を充実させるためには、食べものの質も重要ながら、“脾”が正常に機能してくれることが欠かせないからです。

 西洋医学的にも腸内細菌叢に問題があれば脳内の神経伝達物質(セロトニン)や睡眠ホルモン(メラトニン)に影響するほか、脳がストレスを感じても、消化管局所でカテコラミンが放出され、大腸菌などの病原性が高まって腸内細菌叢が悪化することが確かめられています。また、国立精神・神経医療研究センター神経研究所の研究でも、善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることが示唆されています。いずれにせよ、腸内細菌叢の改善を含めて胃腸の機能面の充実をはかることがストレス抵抗力を高めることにつながります。

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