新たな十年の始まり

生薬価格の“高騰”

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。さて、今年は十干の最初である甲(きのえ)の年で、新たな十年が始まるという意味があります。

 春には消費税が引き上げられますし、薬業界でも医薬品のインターネット販売が本格化してきます。また、漢方薬業界に於いては、生薬価格の高騰がいよいよ無視できないレベルになってきており、このことは漢方薬の位置づけに関して、これまでにない変化を生み出していくことが予想されます。 

 生薬価格に関しては、数年前より中国の経済成長や中国に於ける健康保険制度の整備などの影響もあって上昇傾向を続けていましたが、ここにきて更なる中国経済の成長、甘草など野生資源の枯渇問題、中国元高に対して円安傾向が進んだことなどから市場価格の上昇に弾みがついています。象徴的なのは薬用人参の価格で、昨秋に収穫された新ものの産地価格が前年に比べて約二倍に高騰しています。これまでも天候などの影響で市況が一時的に高騰したりすることはありましたが、現在進行中の中国産生薬の上昇傾向は今後も続いていく可能性が高く、既に日本国内の流通価格が保険薬価価格を上回る品目が多くなってきています。現在、生薬メーカーや漢方製剤メーカーが国に対して保険薬価の引き上げを要望しているそうですが、大幅な薬価の引き上げがない限り、刻み生薬をはじめ医療用漢方製剤も健康保険の範疇でまかなっていくことが難しくなっていくと思われます。また、OTCの漢方製剤も値上げは避けられない情勢です。

 

高騰がもたらす“適正化”

 ただし、生薬価格の高騰といっても、中国の開放政策への転換や円高などの要因によって、ここ二十年ほどの価格がむしろ安すぎたという側面もあります。おそらく日本の歴史上、諸物価に比べてこれほど生薬や漢方薬が安い時代というのはなかったと思います。確かに、安いが故にドラッグストアでも手軽に買えるようになったり、低薬価で健康保険に収載されることで漢方薬の消費量は増えてきましたが、反面、適応症だけを大々的に宣伝したり、病名投薬のような形での使用が増えて、本来の東洋医学的な考えに基づいた漢方薬の使用というものが軽んじられているような印象も受けます。

 今後、生薬価格の高騰から製品価格が高くなっていくと、個人の収入が増えない中、消費税も上がってますます販売に悪影響がでるという意見もありますが、それ相応の価格になったら今まで見過ごされがちであった漢方薬本来の価値が見直されてくるのではないかと思います。たとえが適切かどうかわかりませんが、昔、酒税の関係で焼酎が安価だった頃、焼酎は安物の酒というイメージが強く、レストランや高級なお店で飲まれることはなかったと思います。ところが、酒税が上がって焼酎の価格が高くなると、もちろん業界関係者の努力も大きかったと思いますが、今では“安物の酒”ではなく“健康にも良いお酒”というイメージで、人気のある銘柄はプレミアムがつくほどになっています。焼酎そのものの中身は変わらなくても、値段が上がっただけで、価格にふさわしい価値を見いだそうとする心理が働くようです。

 よって、漢方薬価格の高騰(歴史的に見れば適正な水準に戻っていく動きとも言えます)は、一時的な混乱はあるにせよ、価格に見合うだけの知識や情報を提供できれば、むしろ漢方本来の考え方や、西洋薬にはない利点などが再認識されていくことで、ゆくゆくは漢方薬の業界全体の安定的な発展につながるはずです。

 

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