現代版「夏の養生法」

わかりやすい漢方講座(その12)~現代版「夏の養生法」

 今年の夏も、大阪は猛暑が続いています。漢方的に見ると夏の特徴は、
・汗をかきやすく、体内の水分を失いやすく陰虚になりやすい
・汗と共に「気」も出て行くので気虚になりやすい

という2点が挙げられます。漢方では、二つ合わせて「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼びますが、結果的に全身の「気」と「血」の循環が悪くなったり、疲れやすく(夏ばて)なります。

 この為、西洋医学的にも夏場は熱射病(熱中症)だけでなく、脳梗塞なども増えるので、「水を多めに飲め」ということがよくいわれます。(ただし、飲み過ぎはダメです)

 ところが、人によっては、1日中クーラーの中で過ごし、汗をあまりかかないものの、冷たいお茶やビールをがぶがぶ飲むという方も多いと思います。

 こうなると、クーラーの影響でのどが乾燥して痛くなったりするほか、胃腸が過度に冷やされることから、気力が低下し、疲れやすくなる他、汗をかかないので体内(主に胃腸)に余分な水が溜まってむくみやすくなったりもします。

 いずれにしても、夏の養生の基本は、体内に「気」と「水(津液)」を適度に保持するということにつきますが、「気」は陰陽でいうと「陽」ですので、冷たいものの取りすぎは避けるべきで、漢方では単純に水分を補給していくことよりも、体内に潤いをつける作用のある漢方薬を服用することで対応します。

 具体的に中国などでは、夏場は西洋人参(薬用人参の一種で、清朝の時代に最初カナダで発見されたのでそう呼ばれています)や生脈散という処方を服用して、体内に「気」と「水(津液)」を増やしていきます。また、日本でも古来より、梅肉エキスや梅干しなどは、夏場の食中毒の予防だけでなく、体に潤いをつける作用のある食材として応用されてきました。

 考えないといけないのは、人類の長い歴史の中で、冷蔵庫が普及し、夏に冷たいものを日常的に口にすることが出来るようになって、ほんの数十年しか経っていないということで、こうした冷たすぎるものの摂りすぎは、水分補給としての利点よりも、胃腸や「気」のエネルギーを低下させてしまう弊害の方が強いという事です。(「気」のエネルギーの低下は、「気」のエネルギーによって流れている「血」の流れの悪化を招き、結果的に血液の流れも悪くなりますし、胃腸が冷やされて機能低下を起こしてしまうと、胃腸障害だけでなく、全身の機能低下の原因ともなります。)

 結果的に、夏に積極的に水分を補給すべき人でも、できるだけ冷たくない形で補給すべきですし、できれば単純に水分補給するよりも、体にとって必要な潤いをつける作用のある漢方薬などを利用する方が体に無理がないということです。

(漢方の診断では、その方の体内に水分(津液)が十分あるのか、不足しているのかは舌診(ぜっしん)といって、舌の状態を見ればよくわかります。舌の表面の苔が分厚い方は、胃腸が処理しきれないほど過剰な水分を抱えている事が多く、反対に殆ど苔がないような場合は、体質的に水分が不足しているケースが多いとされています)

関連記事

  1. 葛根湯について

  2. ストレスと血流障害

  3. 「病家須知」より

  4. 「効く」と「治る」の違い

  5. 「陰」と「陽」

  6. 春のストレス