“気つけ”の季節

 立春も春節も過ぎて、日毎に暖かくなってきました。春は自然界の総てのものが伸び伸びと成長する季節とされています。ただし、ストレスの影響で気の巡りが滞りがちな方や、陰陽のバランスが乱れている方にとって、様々な症状が顕在化しやすい季節でもあります。

 特に“春は肝の季節”で、五臓では肝に起因する症状、具体的には、めまいやふらつき、目もとの筋肉がぴくぴく震える肝風内動と呼ばれる症状や、何もする気がしない、あるいはイライラするといった肝鬱気滞、ゲップやガスがよくでるとか胃が痛くなる肝脾不和、顔面紅潮や頭痛を伴うのぼせなどの肝陽上亢といった症状がよくみられるようになります。これらの症状に対しては、熄風薬や疏肝作用のある処方で対応しますが、症状自体がストレスとなって、更にイライラするような場合は、頓服的に速効性のある動物生薬~羚羊角(熄風作用)や牛黄(芳香開竅作用)~を組み合わせることで、気分が楽になることが多いようです。

  そのほか、歯科や病院の検査で異常はないといわれたものの口臭が気になって仕方がないとか、以前から耳鳴りはしていたものの、最近になってそのことが憂うつでしようがないといったケースで、口臭や耳鳴りというよりも鬱証と考えられるような相談も増えてきます。こういったケースでは、長期にわたって何らかのストレスを抱えていることが推察され、主訴である口臭や耳鳴りに対応した処方よりも、気付け作用のある麝香製剤などで気の流れを良くしていくことで結果的に自覚症状が改善することが多いです。特に、ストレスが睡眠状態にまで影響して、レム睡眠時に過度に興奮して夜中に何度も目が覚めるとか、夢ばっかり見てぐっすり眠れないといった症状があれば、やはり夜泣きの改善作用のある麝香製剤などを寝る前だけでも服用して、ぐっすり眠れるようになることが昼間の症状の改善につながります。

  因みに、“気つけ”という言葉の意味ですが、ストレスが影響して気の流れが乱れたものを速やかに回復させるという意味です。口臭や耳鳴りの例でいえば、嗅覚や聴覚なども外界と情報のやりとりをして認識しているわけですが、この情報のやりとりも気の流れと捉えられ、気の流れの乱れは感覚器の正常な機能を乱すと考えられます。

  別の角度からいえば交感神経と副交感神経のバランスの乱れを速やかに改善する作用とも考えられます。このため、ストレス性の動悸や神経性の下痢(過敏性腸症候群)などを西洋薬の安定剤のように神経を抑制することなく改善する効果も気付け作用ですし、レム睡眠中の脳の興奮を抑えて睡眠リズムを正常化してノンレム睡眠に導くことも気付けの一種だと思います。

  特に寝付きは良いもののぐっすり眠れないというのはノンレム睡眠の時間が少なくなって、成長ホルモンの分泌にまで影響することで、全身の機能に悪影響を及ぼします。特に女性にとっては何より重要な美容面に影響することで更なるストレスを発生させることにもなりますので睡眠状態をチェックすることはストレス性疾患では大事です。

  尚、若い方に多く見られる肝血不足や気虚と呼ばれるケースでは、気の流れをコントロールする肝の機能低下や流れるべき気そのものの不足から、結果的に気の流れが滞りやすくなっており、ストレスの影響というよりはストレス抵抗力が低下してしまっており、このようなケースでは胃腸を整え、血を増やすような対応が欠かせなくなってきます

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