「腸は考える」

 今回も、本の内容自体は漢方ではないのですが、この本に書かれている消化管に関する西洋医学的な知見が漢方的な目で見ると非常に良くわかるので取りあげました。

 「人間のからだの中でも軽く見られがちな胃や腸。しかし、これらの器官は、食物の成分をすばやく認識したり、毒素の排出を指令するなど、脳と同じ原理で絶妙な働きをしている。消化管ホルモンの研究で大きな成果をあげてきた著者が、酒が胃を強くする話など意外なエピソードをまじえながら、知られざる腸の働きとその素晴らしさを語る。」という内容の本ですが、特に消化管ホルモンは食物の刺激(肉エキス、アミノ酸、エタノールなど)によって分泌され、胃酸や膵液、腸液などの消化液の分泌を促すが、これら消化管ホルモンによっては、その標的となる内臓(消化管)を大きくする「栄養効果」とよばれる作用があるという部分は、なるほどと思いました。

 というのは、現代の物質中心の考え方では、食べ物の栄養成分やカロリーばかりを気にして、胃腸は機械のように勝手に動いていると思われがちなのですが、食前酒やスープ類を食事の始めに摂る意議や、病気で食欲が無くても、少しでも食べることが重要であるという養生の考え方の正しさが証明されたような気がします。

 また、漢方の「消化剤」として有名な小麦粉や小麦のふすま、小豆や杏仁などを混ぜ合わせて発酵させた神麹(しんぎく)というのがありますが、西洋医学の消化剤が消化酵素そのものであり食後に服用するのに対して、神麹は空腹時に服用することでも消化力が増すとされており、その作用機序が発酵によって生じたアミノ酸などが消化管のセンサーに作用して消化管ホルモンの分泌を促すのではないかとの推測もできます。また、神麹でなくても発酵食品が胃腸の機能を高めると言われる要因も、この本に書かれている複雑な胃腸の消化吸収システムを理解すると、わかるような気がしました。

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