前回、鹿茸の高貴たるゆえんは本草綱目の中で李時珍が述べている「生精」すなわち「精」を生じさせるという作用にあり、よって人間の一生の中で「精」の不足がどういう病態を生じさせるかを知れば鹿茸を使うべきポイントも自ずと明らかになってくると思います。
まず人生の始まりから考えますと、生命の誕生に深く関わっているのが両親の「精」という物質である事は前回述べましたが、不幸にして何らかの理由で十分な「精」を授からないまま生まれた場合、漢方では先天不足という言い方もしますが、五遅といって小児の立つのが遅い、歩くのが遅い、頭髪の生えるのが遅い、歯の生えるのが遅い、しゃべるのが遅いという状態になるとされています。
西洋医学的に言えば先天的な問題による発育障害という事になりますが、中国ではこのような場合の基本処方として加味六味丸という処方がよく使われます。これは六味丸に鹿茸と人参を加えたもので、ちょっと体が弱いという程度であれば腎を補う六味丸または一般的な小児の虚弱体質では脾胃、すなわち胃腸の働きに重点を置いて治療しますが、問題が先天不足すなわち持って生まれた「精」の絶対量が少なく、そのために発育、生長に支障を来している場合は「精」を補う鹿茸が絶対に必要となってきます。
また、「精」は人体の物質的な基礎であり尚かつ命門の火と呼ばれる熱エネルギーの燃料みたいなものですが「精」の不足はこの熱エネルギーの不足を生じ、必然的に命門の火(腎陽)で温められて消化吸収を行っている脾胃(胃腸)の機能低下をきたしやすいので、加味六味丸以外にも胃腸機能を整える方剤を加える事が多いようです。
さて、発育不良という程でもなく成長を続けた場合でも、次に問題になるのは第二次性徴がなかなか見られない、または人よりかなり遅れているという場合です。女性の場合では初潮の始まるのが人よりも遅いという事になりますが、よほど無理なダイエットなどをしたとか拒食症であったとかでなければ、生殖活動に深く関わる「精」の不足という事になりますので、やはり「精」を補う鹿茸などが必要となります。
また、成人してからは不妊症などの生殖能力の問題や、内分泌系の機能低下を中心とした疾患であるとか、花粉症なども含めて免疫に関する様な疾患においても「精」の不足が関与していることが多く、女性であれば初潮年齢が遅かったかどうかというのも参考にしながら、鹿茸などで「精」を補う必要があります。
中年以降に関しては、精力の衰え、髪の毛が薄くなる、歯がもろくなる、耳が遠くなる、骨がもろくなる、足腰が弱くなる、免疫力が低下する、ボケてくるといった老化現象と「精」の減少とは密接に関係しています。また、これらの症状は腎虚ともいわれますが「腎」と「精」の関わり合いに関しては次回述べさせて頂きます。

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